童謡は童心性を基調として、真、善、美の上に立つてゐる芸術であります。

 童謡の本質は知識の芸術ではありません、童謡がすぐに児童と握手の出来るのも知識の芸術でないからであります。

 童謡が児童の生活に一致し、真、善、美の上に立つて情操陶冶の教育と一致するのも超知識的であるからであります。

 本書は大正九年に発行した第一童謡集『十五夜お月夜さん』以後の作中からセレクトした第二童謡集であります。


金の星編輯部にて  雨情


[#改ページ]



赤い桜ンぼ

 十と七つ

がん 雁 ならんだ
とをと七つ

七つならんだ
十と七つ

十と七つで
飛んで渡る

雁 雁 この町
啼いて通つた

啼き啼きならんだ
十と七つ

今夜どこまで
飛んで渡る


 青い眼の人形

青い眼をした
お人形は
アメリカ生れの
セルロイド

日本の港へ
ついたとき
一杯涙を
うかべてた

「わたしは言葉が
わからない
迷ひ子になつたら
なんとせう」

やさしい日本の
嬢ちやんよ
仲よく遊んで
やつとくれ


 かなかな

遠いお山の
かなかな
ひとりぼつちで
なきました

母さん たづねに
出かけませう
父さん たづねに
出かけませう

遠いお山の
蜩は
ひとりぼつちで
なきました

日さへ暮るれば
かーな かな
眼さへさませば
かーな かな


 赤い桜ンぼ

赤い 赤い
桜ンぼよ
どこで生れたの

一軒家の
お背戸で
生れたの

ほんたうは
桜ンぼよ
どこで生れたの

ほんたうに
一軒家の
お背戸で 生れたの


 乙姫さん

竜宮の 竜宮の
乙姫さんは
トントンカラリン
トンカラリンと
はたを織りました

黄金こがねたすき
背中に結んで
トントンカラリン
トンカラリンと
機を織りました

浦島太郎も
トントンカラリン
黄金の襷で
トンカラリンと
機を織りました

千年織つても
トントンカラリン
万年織つても
トントンカラリンと
歌つて織りました


 西吹く風

山から
海から
秋が来た

河原のやなぎ
葉が
枯れた

渚の すすき
葉も
枯れた

山から
西吹く
風が吹く

海から
山吹く
風が吹く


 雀の子供

雀の 子供が
生れたよ

穀倉こくぐらの ひさし
生れたよ

昨日は 一羽
今日は 二羽

雀の 子供が
生れたよ

河原の お藪で
生れたよ

昨日は 一羽
今日は 二羽

河原で 生れた
藪雀

廂で 生れた
軒雀

チンチン 啼き啼き
生れたよ


 千代田のお城

千代田の お城の
鳩ぽつぽ

鳩ぽつぽ ぽつぽと
啼いてたよ

千代田の 御門ごもん
白い壁

千代田の おほり
青い水

鳩ぽつぽ ぽつぽと
啼いてたよ


 上野のお山

上野のお山の
かん烏

神田の子供は
何にしてた

表の 通りで
遊んでた

上野のお山の
かん烏

神田の子供は
何に見てた

何んにも見ないで
屋根見てた


 呼子鳥

子供が ゐたかと
呼子鳥よぶことり

かつぽん かつぽん
呼子鳥

子供は お山の
靄の中

子供は 谷間の
霧の中

子供が ゐたよと
呼子鳥

かつぽん かつぽん
呼子鳥


 屋根なし傘

おぼろお月さんは
花嫁さん
屋根なしからかさ
さしてゐる

おぼろお月さんは
花嫁さん
屋根なし傘で
濡れてしまふ

丸い蛇の目の
傘を
おぼろお月さんに
かしてやろ

おぼろお月さんは
花嫁さん
星根なし傘で
濡れてしまふ


 山彦

山に 山彦
尾長鳥

 呼んでも 呼んでも
 ホーイホイ

山の お星さん
はなれ星

 待つても 待つても
 ホーイホイ

河に 翡翠かはせみ
河雀

 呼んでも 呼んでも
 ホーイホイ

河原の お星さん
はなれ星

 待つても 待つても
 ホーイホイ


 桜と小鳥

いい歌 聞かそ
いい歌 聞かそ

桜の 花の
いい歌 聞かそ

小鳥の 歌の
いい歌 聞かそ

桜の 歌は
どの子に聞かそ

小鳥の 歌は
どの子に聞かそ

あしたの朝は
この子に聞かそ


 二つの小鳥

畑で 米磨ぐ
なんの鳥

あれは 畑の
みそさざい

跣足はだしで 米五合
磨いだとサ

河原で 機織る
なんの鳥

あれは 河原の
河原ひわ

河原さ 呉服屋
出すだとサ


 でんでん虫

今日は 引越しだ
でんでん虫の
引越しだ

ポロポロ雨の 降つてるに
家をしよつて
引越しだ

どこへ 引越しだ
茶の樹の葉つぱへ
引越しだ

のーろり のろり のろり
家を負つて
引越しだ


 おしやれ椿

藪の 中に
咲いてる
藪椿

赤いべに さした
あの花
おしやれ

うしろ向いて
咲いてる
藪椿

赤いべに 貰ほ
あの花
おしやれ


 子守唄

父さんなくとも
子はそだつ
母さんなくとも
子はそだつ

雀と遊んで
ゐるうちに
ななつのお歳の
日は暮れる

父さんなくとも
日は暮れる
なんなん七の
日は暮れる

母さんなくとも
日は暮れる
なんなん七の
日は暮れる


 夢を見る人形

赤い靴 ほしがる
お人形さんは
赤い靴 はいてる
夢をみる

赤い靴 ほしがる
お人形さんは
夢で 赤い靴
はいてゐる

赤い帯 ほしがる
お人形さんは
赤い帯 しめてる
夢をみる

赤い帯 ほしがる
お人形さんは
夢で 赤い帯
しめてゐる


 帰る燕

燕の 子供が
帰つてゆく

つかさんに つれられて
帰つてゆく

オペラパツク おみやげに
やりませう

来年 お母さんと
またおいで

お母さんと ふたりで
またおいで


 一つお星さん

一つ お星さん
海の上

一つ お星さん
屋根の上

千鳥は 渚で
日がくれる

馬は、うまや
日がくれる

一つ お星さん
海の上

一つ 一軒家の
星根の上


 お人形さんの夢

お人形さんの
昔のおうち
ガラスのお窓

鳳仙花が
一杯 お庭に
咲いてゐた

お人形さんは
今でも 鳳仙花の
夢を見る

お人形さんは
ガラスのお窓の
夢を見る


 昼の月

白いお月さん
昼の月

お月さん子供の
夢みてる

片われお月さん
昼の月

かはい子供の
夢みてる


 さらさら時雨

畑の 中の
さらさら
時雨しぐれ

さら さら さツと
とりが 頸
曲げた

うまやの 屋根の
さらさら
時雨

さら さら さツと
馬の 耳
濡れた


名所めぐり

 柱くぐり

奈良の大仏さんの
うしろの柱
柱よー

二人子供が
柱くぐりしてる
くぐれよー

奈良は日永ひなが
いつ日が暮れる
子供よー

おれも くぐろか
子供と共に
くぐろよー


 弁慶の鐘

むかし
むかしの
ことだちけ

鐘から
鏡が
出ただちけ

むかし
むかしの
ことだちけ

弁慶さんが
かづいた
鐘だちけ


 貝遊び

一つ 貝殻
拾ひませう

二つ 貝殻
拾ひませう

お歳の 数ほど
拾ひませう

一つ 貝殻
数へませう

二つ 貝殻
数へませう

お歳の数ほど
数へませう


 和歌の浦

船は帆かけて
四国へ
渡る

沙を踏み踏み
啼いた啼いた
千鳥

波はざんぶと
渚に
寄せる

かけて歩いて
啼いた啼いた
千鳥


 霜柱

ザツク ザツク
踏んだ
踏んだ
霜柱

雀に
踏ませて
遊ばせよう

踏んだ 踏んだ
ザツク
ザツク
霜柱

雀も
踏み踏み
遊んでる


 お乳飴

お乳 お乳と
泣く児のおつかさん

鵜戸うどいはや
お乳飴なめた

 トドロ ドンドン
 サーラ サラ

鵜戸のお乳飴
お母さんがなめた

乳なしお母さんの
乳が出た

 トドロ ドンドン
 サーラ サラ


 観音のおびんづる

観音さんの おびんづるは
鼻を撫でられる

撫でやれ 撫でられ
鼻ぴく おびんづるになつちやつた

観音さんの おびんづるは
あごを撫でられる

撫でられ 撫でられ
顋なし おびんづるになつちやつた

観音さんの おびんづるは
顋なし鼻ぴく おびんづる


 姨捨山

姨捨山をばすてやま
捨てられた
姨は帰つて来なかつた

 山から
  山へ
 山彦は

 谷から
  谷へ
 山彦は

時鳥ほととぎす
帰つても
姨は帰つて来なかつた


 阿弥陀池

大阪堀江の
お寺の池は
どぶどぶ泥池だ

百済くだらから来た
阿弥陀あみださまは
どぶんと捨てられた

今は 信濃の
善光寺さまの
お阿弥陀さまだ

むかし 堀江の
どぶどぶ池に
どぶんと捨てられた


 長柄の橋

ここは大阪の どこの町
ここは長柄ながらの 町つづき

長柄の橋は 人柱
雉子雑子 啼くな 雉子啼くな

雉子も啼かずば 打たれまい
この児も泣かずば やられまい

おー おー 恐い おー恐い
雑子雉子 啼くな 雉子啼くな


田甫の狐

 重い車

牛の顔を 見てゐたれば
涙がこぼれた

重い車を 曳かせられて
泣いてゐるんだよ

可哀想で 可哀想で
しやうがない

牛の足を 見てゐたれば
足が痩せてゐた

重い車を 曳かせられて
痩せてゐるんだよ

可哀想で 可哀想で
しやうがない

重い車を 曳きながら
ぢーつとあとを見た

仔牛に 逢ひたくて
後を見るんだよ

可哀想で 可哀想で
しやうがない


 舌切雀

舌切雀は
可愛い雀

たすきをかけて
お庭はきしてる

  サラリ サラ サラ
  サツサラリ
(お庭をはく音)
舌切雀は
可愛い雀

おふろをたてて
おぢいさんを待つてた

  コント コト コト
  コンコトリ
(おふろのわく音)
舌切雀は
可愛い雀

づきんをぬつて
おぢいさんにとどけた

  チツク チク チク
  チツ チクリ
(おぬひものする針の音)
 駈けくら

駈けくらしませう
駈けくらしませう

お庭の中で
駈けくらしませう

負けると 泣くから
駄目だわよ

駈けくらしませう
駈けくらしませう

御門ごもんの外で
駈けくらしませう

転ぶと 泣くから
駄目だわよ

下駄ぬいで 泣くから
駄目だわよ


 沙の数(手まり唄)

一つこぼれた
沙の数 沙の数

百万五千と
かぞへました かぞへました

百万五千の
沙の数 沙の数

かぞへてみたさに
まゐりました まゐりました

二つこぼれた
沙の数 沙の数

かぞへきれずに
帰りました 帰りました


 乙鳥の姉さん

あかいべに渡せ
猪口ちよこで渡せ

乙鳥つばめの姉さん
あかい紅渡せ

お手手をお出し
お猪口で渡そ

お手手を出した
あかい紅渡せ

あかい紅渡そ
お猪口で渡そ

乙鳥の姉さん
あかい紅渡せ


 とんび

とんびが 輪をかいた
    ぴーヨロぴー

油屋の屋根へ来て
    ぴーヨロぴー

豆腐屋の屋根へ来て
    ぴーヨロぴー

鳶が 屋根へ来た
    ぴーヨロぴー

油屋の 油壺
    ぴーヨロぴー

豆腐屋の 揚豆腐
    ぴーヨロぴー


 朝鮮飴や

朝鮮飴やは
   飴トロリ

子供に飴売つて
   飴トロリ

トロリ トロリ
   飴トロリ

トロトロとろける
   飴トロリ

子供が飴買つて
   飴トロリ

トロリ トロリ
   飴トロリ


 三日月さん

山の上の 三日月さんは
細いこと

柳の葉よりも
細いこと

すすきに切られた
薄に切られた

山の上の 三日月さんは
細いこと

つむいだ糸より
細いこと

薄に切られた
薄に切られた


 雀の酒盛り

雀が 米倉 建てたとサ
なーんのこツた なーんのこツた
みそさざい

畑さ 干物 ほしたとサ
見たのか 見たのか
みそさざい

雀が 酒盛りしてたとサ
なーんのこツた なーんのこツた
みそさざい

酒樽 叩いて飲んだとサ
見たのか 見たのか
みそさざい


 鈴なし鈴虫

鈴をなくした
鈴虫は
鈴をさがしにいきました

一軒家の表を
のぞいたり
一軒家の裏戸を
のぞいたり

鈴がないか
鈴がないかと
いひました

どこをさがして
あるいても
なくした鈴は
ありません

鈴をなくした
鈴虫は
鈴なし鈴虫になりました


 あられとみぞれ

あられは
パーラ パラ

お屋根に
パーラ パラ

雀も
パーラ パラ

お背戸で
パーラ パラ

みぞれは
サーラ サラ

お屋根に
サーラ サラ

雀も
サーラ サラ

お背戸で
サーラ サラ


 鼠の米搗き

鼠の米つき
鼠の米つき
  コラキタ コラキタ
  コラサノサ

一の臼には
お米が一粒
  テンキ ポンキ
  テンキ ポンキ
  コラサノサ

三の臼には
お米が三粒
  テソキ ポンキ
  テンキ ポンキ
  コラサノサ

鼠が米つく
鼠が米つく
  コラキタ コラキタ
  コラサノサ


 縄とび

一つとんだ
   とんだ
縄とんだ
   とんだ

二つとんだ
   とんだ
横丁で
   とんだ

 ばたり ばたりと
 下見てとんだ

三つとんだ
  とんだ
お向ふで
  とんだ

四つとんだ
  とんだ
上手に
  とんだ

 さらり さらりと
上見てとんだ


 鬼さん遊び

鬼さん来ないうち
 ざんぶざんぶ 水汲みづく
 跣足はだしで水汲も

一の井戸から
 手桶で水汲も
 ざんぶざんぶ 水汲も

三の井戸から
 釣瓶つるべで水汲も
 ざんぶざんぶ 水汲も

鬼さん来ないうち
 ざつくざつく 米磨ご
 跣足で米磨ご

一の井戸から
 水汲んで米磨ご
 ざつくざつく 米磨ご

三の井戸から
 水汲んで米磨ご
 ざつくざつく 米磨ご


 秋の夜

秋の夜長に
こほろぎは
コロコロコロコロ
糸をひく

寒さが来るから
来るからと
コロコロコロコロ
糸をひく

子供が寒むがる
寒むがると
コロコロコロコロ
糸をひく

寒さが来るから
こほろぎは
子供の着物を
織る気だろ


 田甫の狐

昔わたしの生まれた村の田甫たんぼに古狐がゐました。若い女に化けて旅人をだました話があります。

  田甫の狐は
  赤い櫛さして
  赤い帯しめて
  うしろ姿見せて
  三味線弾いてた

それから風船玉に化けて村の子供をだまさうとした話もあります。

  田甫の狐は
  すすきの蔭で
  赤い風船 飛ばした
  青い風船
  飛ばした

ある時は河童のお芥子けし坊主と畑の中で酒盛をしてゐた話もあります。

  田甫の狐は
  河童の
  お芥子坊と
  畑の中で
  小酒盛してた


 隣村の狐

わたしの生れた村の隣村の田甫たんほにも悪い古狐が居ました。ある時おさよと云ふ村の娘に化けて五兵衛さんの家の裏を馬に乗つて通りました。

  田甫の狐は
  瘠馬やせうまに乗つて
  三度笠かぶつて
  五兵衛さんいえ
  裏の道通つた

  五兵衛さんが見たら
  笠で顔隠した
  「おさよか」と、聞くと
  「そだよ」と云つて
  笠で顔隠した

  「どこへ行く」と、聞くと
  「越後の国さ、茶摘みに行くよ
  五兵衛さん行かう」と
  尻尾出して
  見せた

また、ある時はお医者さんに化けてあるきました。

  田甫の狐は
  薬箱さげて、自足袋はいて
  お医者さんにばけた

  犬がかけて来たら
  薬箱投げて 河原の籔さ
  逃げこんぢやつた

  犬が行つてしまふと
  河原の籔に 首だけ出して
  あつち こつち見てた


 青野の森

あるとし、わたしの生れた村の田甫たんぼの狐が隣村の青野の森へお嫁にいつた話があります。

  田甫の狐は島田に結つて
  青野の森さ
  お嫁になつた

  青野の森の
  聟さん狐
  とんがりお口

  青野の森の
  嫁さん狐
  とんがりお口


海ひよどり

 磯の千鳥

磯が涸れたと
啼く千鳥
沙の数ほど
打つ波は

 昨日きのふ一日
 今日二日
 磯が涸れたと
 云つて啼く

磯が涸れたと
啼く千鳥
どんど どんどと
打つ波は

 親の千鳥も
 子千鳥も
 磯が涸れたと
 云つて啼く


 赤い靴

赤い靴 はいてた
女の子
異人さんに つれられて
行つちやつた

横浜の 埠頭はとばから
船に乗つて
異人さんに つれられて
行つちやつた

今では 青い目に
なつちやつて
異人さんのお国に
ゐるんだらう

赤い靴 見るたび
考へる
異人さんに逢ふたび
考へる


 螢のゐない螢籠

螢のゐない 螢籠
螢は
飛んで 逃げました

今朝目がさめて 見たときに
螢は
飛んで 逃げました

青い ダリヤの葉の上を
急いで
飛んで 逃げました

高い お庭の木の上を
急いで
飛んで 逃げました

螢のゐない 螢籠
さびしい
籠に なりました


 ひばり

雲雀ひばりは歌を
うたつてる

畑の歌を
うたつてる

朝から晩まで
うたつてる

菜種が咲いたと
うたつてる

げんげが咲いたと
うたつてる

ピーチー ピーチー
うたつてる


 月の夜

機織はたおり虫は
月の夜に
すすきにとまつて
機を織る

 カンカラ コン
 カンカラ コン

まだ夜は明けない
明けないと
芒にとまつて
機を織る

 カンカラ コン
 カンカラ コン


 くたびれこま

かんぶり ふりふり
かんぶり ふりふり

くたびれました
くたびれました

赤いこまが
くたびれました

かんぶり ふりふり
かんぶり ふりふり

くたびれました
くたびれました

青いこまが
くたびれました


 海ひよどり

磯にとまつて
ひよどり
海の向ふの
夢をみた

海の向ふに
小さい船が
赤い帆かけて
走つてる

赤い帆かけた
小さい船に
いつか別れた子供が
乗つてる

船と子供を
海鵯は
磯にとまつて
夢にみた


 河原の河童

夜更けに 子供が
歩いてる

頭に お皿が
載つてゐた

河原の 河童の
子供だよ

河原で 夜更けに
火が燃える

雨夜の晩だに
火が燃える

河童の 子供が
燃すんだよ


 鳩さんはだし

少女『鳩さん はだしで
どこへゆく

鳩『遠い田舎へ
お使ひに

少女『鳩さん 急いで
いつておいで

鳩『はだしで 急いで
いつて来ましよ

少女『鳩さん あばよ
鳩『じよつちやん さよな

少女『鳩さん 急いで
いつておいで


 海女が紅

港の 空に
海女がべに
刷いた

港の 空に
赤い帯
ほした

信濃の国も
夕焼け
焼けるぞ

信濃の子供
帯まで
焼けるぞ

    (註。海女が紅は方言夕焼のこと)


 雀遊び

甲の少女
 『雀の子供が
 乳飲んでる

乙の少女
 『おつかさんにだつこして
 乳飲んでる

甲乙の少女
 『雀のお母さん
 乳おくれ

雀のお母さん
 『雀におなりよ
 乳飲ませう

甲乙の少女
 『雀になつた 雀になつた
 チツチツチ チツチツチ


 起き上り小法師

達磨だるまさんの小法師は
転げていつた

転げていつて達磨さんは
起き上つた

三番叟さんばそうの小法師も
起き上つた

ころころ転げていつて
起き上つた

やつこさんの小法師も
転げていつた

転げていつて奴さんも
起き上つた

起き上つて奴さんは
「お早やう」と云つた


 渡りやんせ

渡りやんせ
   渡りやんせ

さつさとこの橋
   渡りやんせ

雨が降つて来る
   渡りやんせ

雨が降つて来りや
   水増しぢや

橋が流れる
   渡りやんせ

渡りやんせ
   渡りやんせ

あとから続いて
   渡りやんせ

橋が流れる
   渡りやんせ


 佐渡が鳥

海に海鳥
鴎鳥

海の遠くは
どこの国

あれは越後の
佐渡が島

波々打つな
波打つな

佐渡は越後の
離れ島


風鈴

 つば子

つば子が来てる
つば子が来てる

つばめの子供の
つば子が来てる

つば子よおつかさんと
来たのかい

お母さんはあとから
まゐります

一船ひとふねおくれて
まゐります

つば子が来てる
つば子が来てる

一船さきに
つば子が来てる

    (註。つば子とは燕の子に仮につけた呼び名です)


 釣鐘草

小さい蜂が
来てたたく

釣鐘草の
釣鐘よ

子供が見てても
来てたたく

大人が見てても
来てたたく

釣鐘草の
釣鐘よ

静かに咲いてる
釣鐘よ


 青い月夜

いとどの虫よ
今夜は月夜だ

土蔵の蔭で
細い糸ひけよ 糸ひけよ

どの家の屋根も
青い青い月夜だ


 木兎

夜啼く
木兎みみづく
あーれはさ
夢がほしくて 夜啼くだ

さーらば
獏々ばくばく
夢とつた

夢なし
木兎は
こーれはさ
夢がみたくも 夢なしだ

さーらばさ
獏々
夢かへせ


 風鈴

風鈴さんが
ちんちん鳴ると
涼しさう

ちんちん鳴つた
ちんちん鳴つたと
大人も子供も
よろこんだ

秋になると
風鈴さんは
かはいさう

ちんちん鳴つても
いつまで鳴つても
子供も大人も
だまつてる


 お歳は二つ

お歳は二つ
おりこうな児だよ

つかさん
見ると
おいで おいでしてる

わんわを
見ると
ハイチヤ ハイチヤしてる

おりこうな児だよ
お歳は二つ

おもちやの
人形に
おいで おいでしてる

お庭の
雀に
ハイチヤ ハイチヤしてる


 波がざんぶりこ

渚にざんぶりこ
波がざんぶりこ
千鳥が逃げた
千鳥が逃げた
波がざんぶりこ

ほーら 逃げた
とつとと逃げた
波がざんぶりこ

磯にもざんぶりこ
波がざんぶりこ

子蟹が逃げた
子蟹が逃げた
波がざんぶりこ

ほーら 逃げた
ちよろちよろ逃げた
波がざんぶりこ


 蟻と砂糖

見せよう
見せよう
蟻に砂糖見せよう

蟻に砂糖見せると
行列つくつて
なめに来る

隠そ
隠そ
蟻に砂糖かくそ

蟻に砂糖見せると
なめに来るから
隠そ


 五つの指

おとしは
いくつ
一本
指出した

おやおや
ひとつ
三本
指出した

ほんとは
いくつ
四本しほん
指出した

ほんとに
いくつ
みんな
指出した


 牧場の仔牛

雨の降る日は
親牛に
仔牛はだかれて
ねんねしてる

桶から水飲んで
草食べて
眼々あいて仔牛は
ねんねしてる

雨の降る日は
永いこと
牧場の日ぐれは
遅いこと

雨々 もつと降れ
雨こんこ
仔牛はだかれて
ねんねしてる


 ねむりぐさ

日暮れにや
   ならぬ
まだ日は
   高い

ねむりぐさ
   下つた
眠るにや
   早い

はたけの
   中へ
ねむりぐさ
   捨てよ

ねむりぐさ
   とりに
灯とり虫ヤ
   来てる


 おぼろお月さん

おぼろお月さん
歳ヤいくつ

とをと六つ寝りや
十と六つ

おぼろお月さん
歳ヤいくつ

十と三つ寝りや
十と三つ

十三七つにや
まだ遠い

おぼろお月さん
十と一つ

底本:「定本 野口雨情 第三巻」未来社
   1986(昭和61)年3月25日初版第1刷
   1996(平成8)年5月31日初版第2刷
底本の親本:「青い眼の人形」金の星社
   1924(大正13)年6月発行
※本作品中には、身体的・精神的資質、職業、地域、階層、民族などに関する不適切な表現が見られます。しかし、作品の時代背景と価値、加えて、作者の抱えた限界を読者自身が認識することの意義を考慮し、底本のままとしました。(青空文庫)
入力:大野晋
校正:林 幸雄
2002年5月8日作成
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