尊敬する宋慶齢夫人に。
 中華人民共和国の輝やかしい一九五〇年の新春を慶賀いたします。
 二〇世紀は、人類にとって、すばらしい人間的理性の勝利の世紀となりつつあります。一九一七年の十月には、地球の六分の一を占める地域にソヴェト同盟の社会主義建設が着手されました。そして、現在ソヴェト同盟は、その人民の、強大な実力と成果によって、人民の歴史の指導力であり、平和の守りてとなっています。帝国主義、ファシズムによって荒廃させられた東ヨーロッパの人民も民族の自立と人民生活の確立を方針として、人民民主主義の社会をつくりました。そして、一九五〇年は世界最大の人口をもつ中国が、中華人民共和国として発足しているという驚歎すべき事実によって、広大なアジアに全く新しい歴史の頁をもたらしました。即ち、世界の正直な人民は、戦争挑発をしりぞけ、自分の国のなかにおける専制的な権力とたたかってゆくために、量りしれないプラスを得たことを意味します。再び、一九五〇年という年への期待と歓喜を!

 一九四九年九月二十一日から十日間、北京で開催された人民政治協商会議第一回全体会議の第一日に行われたあなたの演説が、日本で読まれています。「いまやこの国には活気があふれている。中国人民は、前進しており、革命の気にあふれている。これは、歴史の躍進と建設である」「孫逸仙の三民主義、すなわち民族の独立、人民の民主主義、人民の生活安定は、成功的に完成される確実な保証」があると語られたとき、演壇に立ったあなたの胸にあふれたであろう感動をわたしたちは感動なしに想像することができません。
 あなたがた革命の指導者たちと、根気づよい中国の人民とは、この日までに、幾多の辛酸とおびただしい犠牲を堅忍しました。それらは、人類の誇りとなる英雄的な行動でした。いま、わたしたちが、中国人民の勝利に対して衷心からのよろこびと友誼の感情を語るにつけ、日本の帝国主義が、中国解放のために最悪の妨害的存在以外の何ものでもなかったという事実を思いかえさずにはいられません。しかし、中国の人々は人民たる真情によって諒解されるでしょう。その日本帝国主義が、日本の人民生活をもまた壊滅させていることを。
 新しく採択された中華人民共和国の大憲章が、その第一章第六条、第五章第四十八条に「婦人を束縛する封建制度を廃止」し、母性福祉を約束していることは当然といいながら、その現実的な価値ははかりしれません。なぜなら、新しい中国の人民社会において、憲章の条文は実現されるものだからです。日本の政権が、こんにち言論を抑圧し、正義をまげて労働者階級を弾圧し、民主的発展を挫折させるために、捏造している幾つかの政治的事件の裁判でのように、人民の基本的人権さえも法律によってふみにじられることはあり得ないからです。
 一九四九年十月六日の夜、わたしはラジオを聞いていました。北京からの日本語放送は、新中国の国旗について説明しました。赤地の左肩に輝く一つの黄色い大きい星に中心をむけて配置されている四つの小さい星は、労働者、農民、小市民、民族資本家をあらわす人民の統一戦線を語っているものであると。ラジオはその時、上海を中心として全生産が回復したというよりも、むしろ増大したことをつげました。同じ夜のモスクワ放送は、ソヴェト同盟の第三十二周年革命記念の前夜祭で建設を語る演説と心を魅する音楽を送りだしました。その夜に、わたしたち日本の八千五百万の人口は、次の戦争に利用することができるといっている人のあることを知りました。

 尊敬する宋慶齢夫人。
 一九五〇年における日本のまじめな人民の関心事は、全面講和によって世界平和に協力することです。パール・バック女史は、日本人は食べるものと住むところさえあれば、あとはどうでもよいのだという意味の意見を発表されているそうですが、人民の精神は決してそれだけではありません。もしそうであるならば、どうしてこんにちの人民の共和国が中国にありえたでしょう。わたしたちは、くいぶちをよそから貰うことでその飼犬にされたいと思っていません。日本の軍事基地化に反対なのは、アジアとヨーロッパの平和がなければ、日本の人民の生活安定があり得ないからです。
 北京で開かれようとしているアジア婦人大会に、日本代表が出席できるかどうかにかかわらず、世界の平和のためには日本の婦人も彼女たち一人一人が闘っている生活の辛苦を参加章としていると思います。
 一九五〇年における中華人民共和国の発展を祝し、革命の母たるあなたの一そうの健康と活動とを切望いたします。
〔一九五〇年二月〕

底本:「宮本百合子全集 第十五巻」新日本出版社
   1980(昭和55)年5月20日初版発行
   1986(昭和61)年3月20日第4刷発行
底本の親本:「宮本百合子全集 第十二巻」河出書房
   1952(昭和27)年1月発行
初出:「婦人民主新聞」
   1950(昭和25)年2月3日号
入力:柴田卓治
校正:米田進
2003年6月4日作成
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