場所

 大学の道。      Fu[#「Fu」は縦中横]の家。
 此の家。 音楽会。 友達のうち。 郊外のトリップ 電車の中。 どこかの別荘。
           ――○――
○吉田さんのところ、
○フィティア 自分の部屋、ダニエルの、和田の。ホール、  ○病院、  ○キャムパス。リス、楓、ぬれて横わるパン、インディアン ダンス
○図書館(セミナー。ジェネラル。廊下。) ○往来、
 插話は此処へ入る。 ――○――
○レークジョージ  ○メゾン ファシール、  ○チョプスイ。
○アムステルダム(朝、夕方、夜)  ○岩本さんのところ。
○バン コートランド。  ○オペラ。  ○芝居。  ○西村さんのところ。
 〔欄外に〕插話。 講演会。(弘道会)
日米週報社より、本田が広告を見て訪ねて来たことをしらす。
一月  八日 セントルーク退院。
    九日 の朝本田来る、みじめな様子。
       の夜、よそに招かれた父を待って、マルセーユーのホールで話す。グランパが桜の花を書き、エニシアルを研究し、十二時過に、グリルでランチをとる。
    十日 グランパを御飯に招き、マルセーユの額のかかった下のソーファーで、盛に議論した。ダディーは長野宇平治氏と話し、オーケストラは鳴る。
   十一日 本田をたずねようとしてミルス・ホテルに行く番地をききに来る。ダディーはかえらず。自分は赤いスウェターを着る。ネクタイの先のほつれたのを縫ってあげる。
   十二日 博物館、展覧会、活動、
   十四  グランパに招かれて若松から、リデムプションを見る。
   十五  未来の仕事(自分)についての議論
   十六  第三木曜会へ一緒に行く、寒い日、かえりに一〇丁目の角でお茶をのむ、始めて石原さんに会う。グルグル廻る戸から出た彼の印象、妻沼さんのダディへのインビテーションをホールできき、いそいで、オムレットをたべて出かけた。
   十七日 フィティアに行く。
   十九日 ホテルで一緒に食事をし、夜はグランパがダディの packing を手伝う。三人で、夜フィテアにかえる。
   二十日 ダディを二時四十分の汽車に見送り、三人で(三浦鍋太郎、矢野)サブに乗り、村川氏に会いたいと云うので、送ろうとするAを強いて一〇三町目でおろす。
  二十二  Betrothal に行く約束があったので、Aに電話をかける。少し喉の工合が悪いと云う。気の毒に思いながら行く。二度目。マティネー。夕方早く B'way を歩いて帰る。せわしい夜の B'way
  二十四日 ハムプテンのハムレット、和田と三人。(のろのろとして居る和田)和田の不自然な緊張と荒々しさが自分の心を苦しめた。風の激しく寒い日
  二十五日 電話で、ワーレスロッジに行くことを告げる。
  二十六日 夜電話にて話す
  二十七日 帰紐、夜逢って、リバーサイドを歩く。
  二十八日 此日Aは始めてセミナーから Avery に来る。此頃自分はアベレーホールでイジプトの研究をして居たのだ。
   三十日 A、Avery で Persian と Chinese Art を調べ始める。夜ファシールに行く。
  三十一日 Avery で隣の区切りにグランパが来る。背中を見せて居る。自分の心持。
二月  一日 Ideal husband を Miss Wells と見る。
    二日 日曜。始めて Jefferson の説教を聞く。
    三日
二月  八日 始めての雪。Avery で、午後こっそりお菓子を買いに行って、来て居た和田とAにあげる。夜九時半頃まで Seminar に居てあとは雪の中のキャムパスを歩く。それからフレンチペーストをたべる。
二月 一〇日 始めて河を越してパリセードに行く。高垣氏と共に。
二月 十三日 誕生日、皮の袋、岩本さんと三人で若松へ行く。下の Whittier のホールでは、支那人のミーティングがあった。此日のAの日記。〔以下原稿十二行分欠〕
二月 十五日 いつかおすしを食べたいと云ったのが真個に成って夜和田さん、岩本さん、吉田、その他が S. C. に呼ばれた。美くしいグレト フルートが、サクランボーで飾られたのを見て自分はどんなによろこんだか。
   十八日 “She wanted to stay in her own room this evening, and so I decided to stay in too ! My dearest “Chame”, I don't deserve your love: I don't deserve your kiss, and I don't deserve anything from you. Leave me behind you to struggle, suffer and die alone !!”
        夜岩本さんが来て、グランパから電話で私が工合でも悪いのではあるまいか、と云って来る。堪らなく成って自分で電話をかけて呼ぶ。岩本さんは、用があると云って図書館へ行った。
   十九日 Aの Fountain pen がこわれたのを見て、ひるのかえりに買って来る。始めて彼の為に物を買うことは何と云う悦びだったか、メゾン ファシールに二度行く。
   二十日 美濃部がオペラに誘う。岩本のことづて。
        Avery で。Aが不快な顔をしたので風邪と云ってやめる。夜、岩本さんと、村川、松本氏の送別会へ行く。
  二十二日 Washington Birthday 一宮氏のところへ行って(お茶の水出身者の会)かえりに S. C. によって、Aの帰って来たのに送られて Whittier にかえる。
  二十三日 日曜日。一宮家から吉田さんの at home day に行き、コスモポリタンに行く。小崎氏が来たので、芹野さんとAと四人で Whittier に行き和田に会い、三人で、メゾンに行き、小崎と和田をのこす、青木のことを小崎からききたいだろうと思って。かえると、Aが不機嫌になって先に戻ってしまった、その心持。
  二十四日 From his diary.
       “Disagreeable atitude of Kozaki, Serino and Wada made me feel unhappy to stay with them so 〔一語不明〕“Chame” sweet dream I came home to sleep. Yes, what a wonderful power she has ! Cherish your heart, my dear “Chame”! How can I leave you ! I woke up early again this morning and felt “Chame's” unseen finger and embraced the vacant space tightly with a desire that she may be my “better half” and mine only.”
  二十六日 夜、セミナー、雨降り、午後和田と ten sen store で baby duck を買い、東京から来た豆と一緒に持って行き、自分は若し結婚すれば、決してA以外の人とは仕ないという約束。
  二十八日 静かな夜、Grant's tomb の廻りを幾度も幾度も歩きながら、結婚生活に就て話し、ファシールで茶をのみ、
三月  一日 土曜、ブァン コーランドに行く。明い晴れた風の吹く日、
三月  三日 三井物産の人達が御飯に呼ぶ。
三月 一四日 降雪。
三月 十八日 夕立の来そうな霧の濃い不思議な日、自分は興奮してAと一緒に出かける。今井へ行き、都で食事をし、east side に出かける、古本を見に。
  二十一日 少し曇り気味の風の吹く日。ミス コーフィールドに電話で歎願して、パリセードに行く。
        自分の膝に頭を横えて、静に涙をこぼす彼の上に風が吹く。
  二十二日 鶴見、河井、其他星野等と食事に招れる。
  二十四日 雪降り。野中夫人に若松によばれる。おくれてミス コーフィルドに行き、グランパのことを話す。
  二十五日 “Victory day” for New York City.
        静かな Whittier で午後会い、Drive と B'way を沢山歩いて、チョプスイに行く。又ママいてかえる。
  二十六日 幸福な昨日に引かえ、自分は悲しみを感じた。そして、パリセードに行く。森の奥、廃れた見世物小屋、
  二十七日 A、Lake George に立つ。
  二十八日 金曜。いつ結婚するか、Aは good reputation を持たない等と話す。
  二十九日 土曜、Aかえる。Grand Central に迎に行く。City library に行き、tea をのみ、Whittier に行き、若松に行って、ゆっくり話す。和田が、ダニエルに私のことを話したと云うので、直接ダニエルに逢うことにする。
   三十日 Sunday. Day light saving. Tabernacle に行くのに後れて一人で行った。
        Central Park を抜けてミス コーフィールドまで歩き、彼女をつれて、Mrs Sho の処へ行き、部屋を見、かえりに二人でコスモポリタンクラブへ行く。かえりに、ベルギー人のオーツ(青木の仏語の先生)と四人でコーフィールドの家へ来て、話す。ミス コーフィールドの意地悪。コロンビアの高い壁
  三十一日 ミス ダニエルに会う。あの部屋。午後Aは今井に会うため、自分は帽子を買いに出かける。
        Fifth Ave. で此の青い指環を買う。
四月  六日 日曜 歩いて Whittier に帰ってから、Yonkers に行く。Wallace lodge を見るため、只見た丈で森を抜け、小さい美しい家を見て Home sick になり、チョプスイに行き歩いて家にかえる。
四月 十三日 夕方七時頃から岩本さんと三人で、Music Service に行く。
四月 十四日 月曜 夜、メトロポリタン オペラに行く。ファラーとカルーソーのカルメン
        夜十二時過外を歩く。
四月 十六日 (雪)つもった雪。夜第三木曜会。同時に Earl Hall に於て尾崎行雄の演説がある。其をききに行きたい人もあるので、どちらにするかと云うことが少し問題になり、結局、Earl に行く。矢田夫人に会う。今日まで何うしても会えなかった和田が野中夫人と来て居るのを知る。帰りに歩き、ミス Wells と吉田に道で会う。
   十七日 Easter Vacation began. Whittier は静に成る。
   十九日 土曜、朝Aに徳山が Miss Minami との婚約を破ったということを話す。Miss Caulfield が Minami に何か云ったのだそうだ。午後、Van Cautland Park.
   二十日 岩本さんと森田さんとに会う、青い着物でイースターの休みがすむ。
  二十三日 森田さんと岩本さんが来たので、Aを呼んで食事をすることにし、チョプスイに行き、かえりにゆっくり Riverside park を歩く。
  二十七日 日曜。パリセードよりダイクマンまで長く歩き、夜道をしながら。省吾さんのことについて議論する。
  二十九日 午前中に、宮武が来る。原稿のこと、並、坪内ホームスのこと。
五月四日の夜、Sunday――Aと Brick Church に行き、カーネギー夫人に会いかえりに Fifth ave を歩いて、Maison Facile で Supper を食べ、夜の中を散歩してかえり、殆ど徹夜して、ミス コーフィールドのことに就て考える。
五月  五日 朝早く Library に行き Seminar で、ミスコーフィールドに絶交の手紙を書く。午後は Whittier
五月  九日 鶴見氏と午後から Greenwich へ人をたずね、お茶をホテルでのみ、東洋軒で食べ、ミス リザノブィッチのところへ行き、アスターに一寸より、其から Whittier にかえり、Aに電話をかける。十二時すぎ。
五月 十二日 Avery に Roosevelt Memorial exhibition を見る。晴れたやわらかい晩。学生のインディアン ダンス
五月 十三日 友情についての議論(鶴見氏に対する。)
五月 十五日 夏の買物、広場で岩本、南、和田と三人で話す
       〔欄外に〕此のシーンはもっと前に持って行ってよろし。
五月 二十日 Lake George へ立つ、
九月 二十日 New York へかえる、家をさがす。暑い日
        岩本さんのところへとまる。
  二十一日 Claremont にきまる。岩本さんと B'way tabernacle に行く。
十月 十五日 十月三十日にアナウンスするにきめた。
   十七日 印さつを命ず。
   十九日 岩本さんが来る。ミス コーフィールドに会って、彼女が私に会いたがって居ることを話すがことわる。
   三十日 ハムレットを見る。
    一日 渋谷家の始祖。
    五日 ダディよりの報知、帰ると決心する。
    六日 買物、電報を打つ切手をたのむ。
        青木さんの来た日曜。
        此日に岩本、森田氏と来て、自分に日記をくれる。
   十八日 立つ。夜 ワシントンで一時間とまったのでうちへ葉書を書く。
   二十日 New オルレアンス着、黒人、綿。七時発。立つとき、金を貰いに来た男が、拒まれて、何かすて科白を云う。
  二十二日 メキシコ アリゾナ
  二十三日 L. A. 着、あの心持 San Gabriel を見物
  二十四日 ドクターヒアスに呼ばれる。
  二十五日 CC夫人ポーリンとワシントンに立つ。送る。
        CCの車にて見物 美くしき小家、
  二十六日 L. A. を立ち、サンフランシスコ着
  二十七日 Thanksgiving Day. 夜立つ
  二十九日 シアトル。部屋で dinner
十二月 一日 船の手つづき、夜中瀬に呼ばれる。稲畑、親子、
        仏国の兵士の話、瀧口の話、(日露)従軍
十二月 二日 最後の晩
十二月 三日 立つ朝、寒いもやの濃い日、朝ミス ハセガワに会う。十一時出航、
 自分から出した手紙の抜粋、
三月一日付、
 今日のように春らしい日差しに成って暖で、雨が降ってやんで、水たまりに日が写って居ると法悦に近いような喜びに胸を打れます。総ての人が幸福にならなければなりません。

底本:「宮本百合子全集 第十八巻」新日本出版社
   1981(昭和56)年5月30日初版発行
   1986(昭和61)年3月20日第2版第1刷発行
初出:同上
入力:柴田卓治
校正:磐余彦
2004年2月15日作成
青空文庫作成ファイル:
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