法律と風習とによって、ある永劫えいごうの社会的処罰が存在し、かくして人為的に地獄を文明のさなかにこしらえ、聖なる運命を世間的因果によって紛糾せしむる間は、すなわち、下層階級による男の失墜、飢餓による女の堕落、暗黒による子供の萎縮いしゅく、それら時代の三つの問題が解決せられない間は、すなわち、ある方面において、社会的窒息が可能である間は、すなわち、言葉を換えて言えば、そしてなおいっそう広い見地よりすれば、地上に無知と悲惨とがある間は、本書のごとき性質の書物も、おそらく無益ではないであろう。
  一八六二年一月一日
オートヴィル・ハウスにおいて
ヴィクトル・ユーゴー

底本:「レ・ミゼラブル(一)」岩波文庫、岩波書店
   1987(昭和62)年4月16日改版第1刷発行
入力:tatsuki
校正:小酒井博士
2007年1月15日作成
2013年4月21日修正
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。