――おれはかうして雲を見てゐる。君はさうして新聞を読んでゐる。彼女は、こゝへ来て、どつちに先づ話しかけるだらう。
――二五高女卒頗富愛嬌不幸無支度先方職不望温情有方至急。
――あの下駄の音はあんまり落着いてるね。君は珈琲を飲むかい。
――飲む。信用及商品持込家財其儘証人不要手軽月賦も可。
――来たぞ、おい……。
――長くお待ちになつて……?
――ねえ、××子さん、僕は今、あの空に、あなたの影が映りはしないかと……。
――ちよつと……をかしいわ、そつちを向いて……。何か面白いことが出てますの。

底本:「岸田國士全集20」岩波書店
   1990(平成2)年3月8日発行
底本の親本:「新選岸田國士集」改造社
   1930(昭和5)年2月8日発行
初出:「手帖 第一巻第一号」
   1927(昭和2)年3月1日発行
入力:tatsuki
校正:門田裕志、小林繁雄
2005年10月6日作成
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