然しながら夢をもつた人が即ちそれを実現出来る人であるとは申されません。夢を実現するのにはより大きな努力が必要であります。小さな夢なら持ち合せの力でできるかも知れませんが、皆さんの美しい大きな夢を実現されるには大きな努力が必要であります。夢を描くといふ点に於ては既に大きな成功をされてをると思ひますが、実現するといふ能力においては皆さんは未だ出発点にをられると思ふのであります。先程佐藤尚武先生が自信と自惚とは違ふといふ意味のことをおつしやいましたが、まさか諸君に自惚があるとは思はれませんが、夢を描けると思つて実現する能力が出来たと思はれたらそれは誤りであり、どうかその誤りを犯さないで頂きたい。私は大政翼賛会の仕事の上でさま/″\の夢を描いてをりますが、いざとなるとそれを実現する力が自分に一つもないことを毎日痛感してをるものであります。しかし諸君が大いに励まれるならば、私どもの恐らく成し遂げ得ないことを成し遂げ得らるゝであらうことを信じます。どうか諸君の力によつてそれを打ち樹てゝ頂きたい。これが我々の世代から皆さんの新しい世代への唯一の最も痛切な願ひであります。
底本:「岸田國士全集25」岩波書店
1991(平成3)年8月8日発行
底本の親本:「婦人之友 第三十六巻第三号」
1942(昭和17)年3月1日
初出:「自由学園男子部第一回卒業式講演」
1941(昭和16)年12月8日
「婦人之友 第三十六巻第三号」
1942(昭和17)年3月1日
入力:tatsuki
校正:門田裕志
2010年3月1日作成
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