流頭。ハロー、聞えるかね、また聞えんふりをしとるんぢやないかね。
茶散。まあいゝからその先を云ひたまへ。日本で戦艦献納運動がはじまつたら、どうしたと云ふんだ。
流頭。どうしたもかうしたもない、若しほんとだとしたら、君、われわれの作戦は土台から、君、てんで問題にならんぜ。
茶散。予算をふやせばいゝぢやないか。君のところには、まだ金はあるだらう。
流頭。金はあるが、人がない。
茶散。人はなんとかなるさ。女がゐるよ、女が。うるさい奴は、みんな水兵にしちまへ。
流頭。まつたくさうでもしたいよ。ゆふべも、実はある婦人会でいぢめられたんだがね、日本の軍艦がアメリカの軍艦より一隻でも多くなつたら、もう戦争は止めろと云ふんだ。フヽヽ無理はないよ。

底本:「岸田國士全集26」岩波書店
   1991(平成3)年10月8日発行
底本の親本:「辻小説集」八紘社杉山書店
   1943(昭和18)年8月18日発行
初出:「日本学芸新聞 第一五一号」
   1943(昭和18)年4月1日
入力:tatsuki
校正:門田裕志
2010年4月19日作成
2011年1月11日修正
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