一年の大部分を山で暮してゐる私は、季節の足音に耳をすます習慣がいつの間にかできました。八月にはいるともう秋の気配が感じられますが、家畜の世話や、魚釣りや、たまに机に向つての仕事やをひつくるめて、私は今、自然のふところといふものに、大きな魅力と、言ひやうのない不安とを感じてゐます。この時代に、秋の訪れを待つことは、たゞの風流ではすまされぬ気持をわかつていたゞけるでせう。

底本:「岸田國士全集28」岩波書店
   1992(平成4)年6月17日発行
底本の親本:「婦人之友 第四十三巻第九号」
   1949(昭和24)年9月1日発行
初出:「婦人之友 第四十三巻第九号」
   1949(昭和24)年9月1日発行
入力:門田裕志
校正:noriko saito
2011年2月8日作成
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