あるところに、ぞうさんとねずみさんがゐました。ぞうさんはわがまゝで、おこりんぼで、ねずみさんは、おくびやうで、こわがりやでした。そのふたりが、とてもなかのよくなつたおはなしです。もと、ふたりは、かういふふうに、せいしつが、たいへんちがつてゐたので、がつかうで、おなじつくゑでべんきやうをしてゐましたが、どうしても、なかよくすることができませんでした。
 なぜといつて、ぞうさんは、おひるのごはんのときには、いつでも、わらだの、かすぱんなどをもつてきて、ねずみさんが、にくだの、おこめなどをたべてゐるのをみると、すぐ、おとなりから、はなでつつくのです。「ねずみくん、おいしさうだなあ、すこしぼくにもわけてくれないか。」といひますので、ねずみさんはこわいので、だまつて、ちひさくなります。ぞうさんは、えんりよなく、ねずみさんのおべんたうをたべてしまひました。ねずみさんは、それでもおこりません。ただこわくてこわくてしかたがありませんでした。
 ところが、あるひのこと、ねずみさんは、がいこくからかへつたおぢさんから、ぼうえんきやうをいたゞきました。それをもつて、がくかうにまゐりました。すると、ぞうさんが、やつてきて、「それなんだい、ぼくにちよつとかしてくれたまへ。」といひましたが、らんぼうもののぞうさんにかしては、こわされてしまひさうなので、「ぞうさん、これ、なんでもないんだよ。こんなふうにしてのぞいてゐるだけだよ。」といひました。ぞうさんは、しつぽをぴりぴりとふるはせて、おこりはじめました。ねずみさんは、ぼうえんきやうに、めをあててみせました。すると、ねずみさんは、きゆうにわらひだしました。ぞうさんは、ますますおこりました。ぞうさんがおこるほど、ねずみさんは、おほわらひしました。ぼうえんきやうからみえたぞうさんは、まめつぶほどちひさくて、一ちやうもむかふのほうにゐるやうでした。ぞうさんはおこつて、ぼうえんきやうをねずみさんからひつたくつて、めにあてました、「やあ、なんて、りつぱなねずみくんだらう。」とぞうさんはびつくりしました。
 ぞうさんは、ねずみさんとは、ぎやくに、めがねをめにあてましたので、ねずみさんは、やまのやうにおほきく、りつぱにみえました。「や、どうも、ありがたう。」と、めがねをはづして、ねずみさんに、わたさうとしましたら、ねずみさんは、それはそれは、ちひさくみえましたが、なんだか、とても、りかうにみえましたので、どうしても、「これ、ぼくのえんぴつととりかへつこしようや。」とはいひませんでした。
 ねずみさんは、だんだん、ぞうさんがこわくなくなりましたので、ぞうさんに、さんじゆつや、よみかたのわからないのををしへてあげたりしました。そして、すつかり、なかよしになりました。

底本:「日本児童文学大系 第二六巻」ほるぷ出版
   1978(昭和53)年11月30日初刷発行
底本の親本:「子供之友」婦人之友社
   1930(昭和5)年6月
初出:「子供之友」婦人之友社
   1930(昭和5)年6月
入力:菅野朋子
校正:noriko saito
2011年5月3日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。