ある所に、三匹の小熊さんがお母さんと一緒に住んでをりました。
 朝になると、目覚し時計が、三匹の小熊さんを起します。
 三匹の小熊さんは、それから朝の御飯を頂きますが、今朝からは、牛乳を飲まなければなりません。何故といつて、牛乳は三匹の小熊さんの身体のためには一番いいものですから。
 けれども、困つたことに、三匹の小熊さんは、牛乳といふものは、にほひをかぐのもきらひです。そして、どうしても飲みません。それを見てゐたのが、戸棚の中の角砂糖さんです。箱の中から首を出しました。小熊さんたちは、牛乳は大きらひですが、角砂糖さんは大好きですから、今迄のシカメツ面はどつかへ飛んでしまつて、急に、ニコニコ致しました。
 お母さんは、それを見て、牛乳をおなべにうつして、その中へ、角砂糖さんを入れやうと致しますと、気のきいてゐる角砂糖さんたちは、水泳の選手のやうに、見事なダイヴイングをして、牛乳の中にはいつてしまひました。それで、やつと三匹の小熊さんは甘い牛乳をのみました。
 さて、三匹の小熊さんには一人のお友達があります。あひるさんです。あひるさんはお父さんと一緒に住んでゐました。
 あひるさんがベツドの中で寝てゐますと、あひるさんの大好物のどじようさんが、部屋の中にはいつて参りました。あひるさんは、ベツドからとび起きてどじようさんを追ひかけました。どじようさんは戸棚の中へ逃げこみました。あひるさんは、それを追ひかけて、戸棚の中へはいつてしまひました。
 あひるさんのお父さんは、あひるさんが仲々起きて来ませんので、お部屋へ起しに参りました。すると、あひるさんの姿が見えません。あひるさんのお父さんは心配のあまり、あひるさんのお友達の三匹の小熊さんに電話を掛けて、あひるさんを探し出してくれるやうに頼みました。
 三匹の小熊さんは、友達を探しに出掛けることになりました。お母さんは汽車賃に十銭玉を下さいました。
 三匹は停車場へ参りました。汽車に乗らうとしましたが、どこへのるのか、汽車に乗るのは初めてなので分りません。三匹は汽車の屋根に座り込みました。汽車はやがてトンネルにはいりました。三匹の小熊さんは屋根に乗つてゐたものですから、はねとばされました。三匹は、トンネルの上を一生懸命で駆け出して、やつと、トンネルを出た汽車の屋根にとび乗りました。あんまり力を入れてとび乗つたので、屋根をつきのけて、汽車の中へめり込みました。汽車の中へおち込んだ三匹の小熊さんは、汽車から外に、押し出されました。何故といつて、そこは、小熊さんたちの降りる所だつたからです。何といふ便利に出来てゐる汽車でせう。
 三匹の小熊さんは、それから探偵の犬さんの家へ、あひるさんの捜索を頼みに行きましたが、犬さんはこの寒さで、風邪を引いて、気がむしやくしやしてゐましたので、小熊さん等がいくら頼んでも窓をしめて返事を致しません。やつと探偵用虫眼鏡を借してくれました。あひるさんの家の方へ歩いて来ますと、雪が降り初めました。
 雪の中を、むかふから、何やらわからないムクムクしたものがやつて来ましたので、三匹の小熊さんは、虫眼鏡で見ますと、それは雪だるまのお母さんでした。お母さんはスキーに乗つてゐましたので、すべつてころびました。その時に、お母さんのさげてゐた包の中から、雪だるまの子供が三人ころがり出ました。三匹の小熊さんは、雪だるまのお母さんなどといふものを見たのは生れて初めてなので、あまり珍らしいものですから、虫眼鏡を、太陽の光にあてて雪だるまのお母さんをとかしてしまひました。
 雪だるまの子供は大変におこりました。そして、三匹の小熊さんを追つかけて参りました。雪の上を走りましたので、三匹の小熊さんは雪だらけになつて、おしまひには雪の玉になつて、コロコロころがりました。雪の玉は、ある一軒のお家の戸にぶつかつてこわれました。中から、無事に、三匹の小熊さんがころがり出ました。
 この家は、都合のよいことに、あひるさんのお家でした。あひるさんのお父さんはあひるさんがまだ見付からないので洗面器に一杯になる位涙をこぼして泣いてゐました。
 三匹の小熊さんは、あひるのお父さんを見て、大変気の毒に思ひましたので、直ちに、探偵に取りかかりました。三匹は虫眼鏡で方々を探しました。そして、やつと、床の上にあひるさんの足跡があるのを見付けました。足跡は、戸棚の前でとまつてゐます。戸棚を開けますと、そこで、呑気なあひるさんはグウグウ寝てゐました。あひるさんのお父さんはどんなに喜んだでせう。
 お父さんは三匹の小熊さんに、お礼のしるしに、どじようをくれました。三匹は、それをふくらまして飛行船にして、それに乗り込みました。そしてお家へ帰るのです。
 けれども、途中で、鳥が飛んで来て、飛行船をくちばしてつつき破りました。三匹は墜落して、ある家の煙突の中へ落ち込みました。
 幸なことに、そこは、小熊さんのお家でした。小熊さんはススのために真黒になつてしまひました。
 お母さんは三匹をお風呂に入れやうとしますが、三匹は、お風呂ときたら、毛虫よりもつときらひなので、砂糖だるの中や、着物の後や、カーペツトの下へもぐり込んでかくれてしまひました、お母さんは、やつとのことで三匹をひつぱり出して、お風呂に入れました。三匹はお風呂へはいつてしまふと、矢張りお風呂はあつたかくていいもんだなあとよろこんでニコニコしてゐます。そして、ほんとにそれにちがひはございません。

底本:「日本児童文学大系 第二六巻」ほるぷ出版
   1978(昭和53)年11月30日初刷発行
底本の親本:「婦人之友」婦人之友社
   1931(昭和6)年12月
初出:「婦人之友」婦人之友社
   1931(昭和6)年12月
入力:菅野朋子
校正:noriko saito
2011年5月3日作成
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