あるおうちの お台所に お鍋とお皿とカーテンが くらしてゐました。
ところが おなべも お皿も カーテンも 毎日 おなじおしごとを してゐるのが、いやになつて、お台所から にげだすことに しました。
お鍋と お皿は さきにでぐちの ところへ いきましたが、まつても まつても カーテンが きません。
「はやくこないと 二人で行つてしまふわよ。」お鍋と お皿は いらいらして いひました。
「だつて、わたし、いくら あし で ふんばつても、あたまが てつのぼうに くつついてゐて、はなれないのよ。」とカーテンはなきながら、あたまをてつのぼうから、はづさうとしました。お鍋とお皿も、カーテンの すそをもつて、うんさこら うんさこら とひつぱりましたが、だめです。
そこで、お鍋とお皿の、どつちかが カーテンをよぢのぼつていつて、てつのぼうを はずすことに なりました。
お鍋と お皿が じやんけんをして、まけたはうが のぼつてゆくことに しました。
お鍋が まけました。お皿は下で 大きな口をあけて、けんぶつして ゐました。
まけたお鍋は カーテンの わきばらを よぢのぼりました。
ところが お鍋が よぢのぼるにつれて、カーテンはよこはらが くすぐつたく なりました。そして とう/\ がまんが できなくなつて、
「あゝ、くすぐつたい。」といつて、お鍋を いきなり ふりとばしました。
お鍋は からんころん、からんころん、ころ/\、ころ/\と、台所の むかふの はしまで、ころがつて行きました。その かつかう が、とてもおかしかつたので、カーテンは 「アハハハハハ」と 大わらひしました。
お皿は わたしだつたら、こな/″\ に こはれるところだつたのに、「まあよかつた。」と むねを なでおろしました。
お鍋は もと/\ たいへんな はづかしがりやさんでしたから、カーテン に わらはれたので、かほを まつかにして、とだなの 中へ かけこんだきり、いくら、カーテンと お皿が、よんでも でてきません。
こんなわけで、お鍋とお皿を カーテンは にげださないで、いまでも お台所で、やくにたつてゐます。もし にげだしてゐたら、くづやさんに ひろはれて、かなしい みのうへに なつてゐたでせう。
底本:「日本児童文学大系 第二六巻」ほるぷ出版
1978(昭和53)年11月30日初刷発行
初出:「コドモノクニ」東京社
1937(昭和12)年7月
※底本の本文は、著者訂正稿によります。
入力:菅野朋子
校正:noriko saito
2011年7月14日作成
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