「大事の書類が入れてあるから、すまないが預っておいてもらいたい」
と云って、高さ三尺位の箱を置いて往ったので、三好の方ではそれを壁厨へ入れておいた。ところで、翌年になって七郎が病気になって夜になると、
「うん、うん」
と云って、魘されるので、女房の留が鬼魅をわるがって、
「おまえさん、どうしたの」
と云って聞いてみると、七郎は蒼い顔をして、
「彼の箱の中から、男と女が出て来て紙幣を数える」
と云ったが、そのうちに死んでしまった。ところで、それから間もなく長女の芳と次男の次郎と云うのが病気になった。そして、次郎は夜になると、
「何人か来た」
と云って飛び起きたり、突然、
「わっ」
と云って叫んだりするので、留は気が注いて、荻原から預っていた彼の箱を開けてみた。
中には十数個の阿弥陀仏とした位牌と六匹の鼠が入っていたが、鼠は箱の蓋を開けるなりばらばらと飛び出して往った。三好家では驚いて代代幡署へ荻原の捜査方を願い出た。
底本:「伝奇ノ匣6 田中貢太郎日本怪談事典」学研M文庫、学習研究社
2003(平成15)年10月22日初版発行
底本の親本:「新怪談集 実話篇」改造社
1938(昭和13)年
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。
入力:Hiroshi_O
校正:noriko saito
2010年10月20日作成
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