戦国時代のあの暗澹たる戦乱の一番をしまひに至つて桃山文化といふ絢爛たる開花があつたり、朝鮮へ遠征軍を送るやうな奇妙な底力があつたり、だから僕は百年戦争といふことに就て、日本人のそれに耐へうる精神力といふことに就ては割合に楽観した考へを持つてゐるのである。
然し、あの長い戦乱の最後に至つて尚朝鮮へ大遠征軍を送り得たといふことは、あの時代に桃山文化といふ絢爛たるものがあつて、表裏一体の自信と余裕の世界をつくつてゐたからではないかと思ふ。
僕は我々の百年戦争に当つて、何分文芸のこと以外には人並の抱負を持たないのだから、文学のことを語らない文学者の講演会などといふものに参加することはできないが、出来るならば、新らしい桃山文化の絢爛たる開花の方に一作ぐらゐは筆の跡を残したいといふことを考へてゐる次第。分に過ぎたる野望であるかも知れません。
底本:「坂口安吾全集 03」筑摩書房
1999(平成11)年3月20日初版第1刷発行
底本の親本:「都新聞 一九七三七号」
1942(昭和17)年9月30日
初出:「都新聞 一九七三七号」
1942(昭和17)年9月30日
入力:tatsuki
校正:noriko saito
2008年9月16日作成
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