現代は科学の世の中でありまして、科学知識がなくては、人は一日もたのしく暮らすことができません。しかし、科学知識を得るには、何よりもまず科学の面白さを知らねばならぬのでありまして、その科学の面白さを知ってもらうために、私はこの小説を書いたのであります。
次に科学知識なるものは、書物を読むと同時に、よく「考える」ことによって余計に得られるものであります。ですから、ドイツの諺にも、「読むことによって人は多くを得るが、考えることによって人はより多くを得る」とあります。
しかるに、探偵小説は、読む小説であると同時に読んで考える小説であります。それゆえ、私は私の小説を読まれる少年諸君に、ものごとを考える習慣をつけてもらいたいと思って書いたのであります。
少年科学探偵、塚原俊夫君の出る物語は、これでおしまいではありません。私は、今後追々発表してゆくつもりですから、皆さん、どうかいつまでも愛読してください。
終わりに、本書の出版に関して、少なからぬ尽力をしてくださった神田書房主と友人深野滋君、および、雑誌に発表した当時から、ずっと挿画を書いて下さって、本書にも美しい筆をふるってくださった森田ひさし画伯に、深甚の謝意を表します。
大正十五年十二月
(『少年科学探偵』文苑閣、一九二六年一二月、所収)