やがて工場にはストライキが起り、或る植民地は反旗を掲げ、鉄橋はダイナマイトで壊された。醜悪なる恋愛と云ふものはかくも青年を盲目にするものであるか。
油のきれた機械を見捨てて、工場主はルンペンとなって街から街へほどこしを求めて歩いた。自己の頭脳を見限って放浪することは、何時も彼を安易なその日暮しの上機嫌にさせた。
…………そして時が流れた。彼は今、頭脳の皺のどの部分からでも、あらゆる過去の断片が引出せるやうにカード式に整理しようと焦った。秋の嵐におびただしく吹き散らされるポプラの葉を川添ひの工場の附近で無心に拾った子供でその昔彼はあった。
底本:「普及版 原民喜全集第一巻」芳賀書店
1966(昭和41)年2月15日
入力:蒋龍
校正:小林繁雄
2009年6月18日作成
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