おぢさんは、みんなが大へん可愛い。この本は君たちに讀んでもらひ、歌つてもらうために書いたのだ。金持の子供なんか讀まなくたつていい。
おぢさんは君たちのお父さんやお母さんと同じやうに貧乏だ。そして君たちのやうな元氣な可愛い子供を持つてゐる。去年は六つになるスミレといふ女の子を一人亡くした。それはおぢさんが貧乏なために、金持の子のやうに大切にしてやられなかつたからだ。だがおぢさんにはまだ二人の子供がある。もしこの二人が死んでしまつても、おぢさんはまだ/\氣を落しはしまい。それは元氣な君たちが大勢ゐてくれるからだ。それほどおぢさんは君たちを、自分の子のやうに思つてゐる。
おぢさんは永いこと、いつも、君たちにいい本をこしらへてあげたいと思つてゐた。けれど貧乏では本も書けない。今度やつとのことで、この本をつくることができた。けれどこれは手はじめで、そんなにいいものとは云へない。第一、本が高すぎる。それに童謠だつて、まだほんとうに君たちに好かれないかも知れない。けれど君たちは金持の子や、金持の味方の詩人やまたそいつらと一しよに貧乏人を馬鹿にしてゐる奴らのやうに、このおぢさんの童謠を一も二もなく、頭からバカにし、惡口なんか云はないだらう。きつと、おぢさんの子供やおぢさんを好いてくれる子供たちと同じやうに、よろこんで讀んでくれ、よろこんで歌つてくれるにちがひない。
そこで、わたしの好きな子供たちよ。おぢさんはみんなとお約束しよう。この次に出すおぢさんの本は、きつといい本で、もつと安くすること、を。
で、今度は君たちから、おぢさんにお約束をしてもらひたい。と云ふのは、おぢさんに前の約束をきつと守らすためには、君たちはこの本をよく讀んで、そしてその中の一番好きな歌とか、嫌ひな歌とか、この歌はこんな時に使つたらどうだつたとか、今度はこんな時に歌ふこんな歌を作つてほしいとか、そう云つたことをドシ/\手紙かハガキかで、云つてよこしてもらひたい。また君たちの作つた歌もぜひおくつて見せてほしい。も一つ。この本は自分ひとりでは讀まないで、なるべくお友だちみんなに見せ、讀ませ、貸してやるやうにしてもらひたい。そしてみんな仲よく、元氣に、大勢で歌ふことだ。――これを是非お約束してもらひたい。
ではみんなよ、早く大きくなつて、君たちも勇敢なプロレタリアの鬪士となつて、君たちや君たちのお父さんお母さんを苦しめてゐる奴らを叩きのめしてくれ!
東京府下吉祥寺四八〇
一千九百三十年四月
[#改丁]槇本楠郎
ふくろは老いぼれ
いくぢなし
お山にかくれて
夜は鳴く
『ぼろ着て奉公』
おらイヤだ
つばめはハイカラ
燕尾服
『土喰て虫喰て
口澁い』
もんどり打つては
空でなく
にはとりや朝から
聲高く
まつ紅な鷄冠を
ふり立てて
蹴爪とぎとぎ
『米くれろう!』
[#改ページ]
飴屋のぢいさん
プープと吹けば
あれあれふくれる
大蛸入道
いやいや狸に
よく似たおやぢ
こいつ、たしかに
よくないやつだ。
お尻の竹から
プープと吹けば
おやおやふくれる
でツかいお腹
飴ちよこブルジヨア
でツかいお腹
プープと吹く間に
あら、あら、パチン。
[#改ページ]
馬、馬、荷馬
うれしいか
目かくしされて
飾られて
エツチラ、オツチラ
車ひく
車はコロ/\
酒樽だ
ヒラ/\小旗に
かざられて
コロ/\車は
酒樽だ
エツチラ、オツチラ
町を行く
初荷の車の
色旗だ
荷馬はビツシヨリ
大汗だ
[#改ページ]
木蔭のとまり木
鸚鵡さん
今日も朝から
ガーリガリ
あんよの鎖を
ガーリガリ
切りたい切りたい
この鎖
ガチガチかんでも
まだ切れぬ
いつまでかんでも
まだ切れぬ
くさりは中まで
かたい金
それでもかまずにや
ゐられない
空はひろびろ
日は眞晝
木蔭のそよ風
そうよそよ
それでも鸚鵡は
知らぬ顏
あんよの鎖を
ガーリガリ
[#改ページ]
とんびトロロの
笛吹きが
笛を落して
さがしてる
どこかそこらに
笛ないか
ピートロトロの
笛ないか
笛はたんぼの
稻の中
案山子の袂で
鳴いてつた
あーれは鈴虫
チンチロリン
それともこほろぎ
きりぎりす
おーとし物だ
おまはりさん
ピートロトロの
笛ないか
おまはりや呼笛の
銀の笛
チヨツキにぶらさげ
怒鳴つた
[#改ページ]
痩せた雀が、チーパツパ
稻穂にパタ/\おりて來る
お前に食はしてなるものか
ホーイ・ホーイ、ほら逃げた
逃げてはまた來る、チイパツパ
痩せた雀が手を合はす
ほしけりやお前もお作りよ
ホーイ・ホーイ、ほら逃げた
逃げてもまた來る、チイパツパ
お腹がチイチとおし拜む
作らんものには見せて置こ
ホーイ・ホーイ、ほら逃げた
追つても追つても、チイパツパ
お腹がチイチと泣きすがる
泣いてもお前にややられない
ホーイ・ホーイ、ほら逃げた
[#改ページ]
村の學校の教室を
ちよつと、のぞいて見てごらん
先生と生徒の大喧嘩
耳をひつぱる、ひつぱたく
本をひつ取る、立たしとく
それでもきかなけや、また叩く
となりの教室のぞいたら
うしろに三人立たされて
時間のすむまで泣いてゐた
そのまた、となりの教室は
校長先生の修身で、
『義勇奉公』と教へてた
[#改ページ]
踏切番の旗ふり爺さん
よろ/\出て來てスツクと立つて
今日も朝から旗をふる
旗はなになに赤と白
赤い旗は持つてても
振るのはやつぱり白い旗
ポツポ/\と汽車は來る
背中ゆすつてピヨン/\跳ねて
急行列車は一二等
踏切番の旗ふり爺さん
行かしたあとでは「こん畜生」と
覺えず振るのが赤い旗
[#改ページ]
一人來い
二人來い
みんな來い
長屋の子供は
みんな出ろ
おいらは腹がへつた
手をつなげ
町のまん中
ねり歩かう
メーデーごつこだ
勢揃ひ
恐れな
亂れな
前進だ
[#改ページ]
チンチンドンドン
チンドンドン
あめ屋が來た來た
ぢいさんだ
一錢もらつて
エツサツサ
エツサツサ
チンチンドンドン
チンドンドン
あめ屋のぢいさん
旗をふる
旗はお添えで
チンドンドン
チンドンドン
[#改ページ]
こんこん小山の野狐は
化けてひよつこり町に出て
葉つぱのお金で酒買うた
葉つぱのお金であげ買うた
こいつ、ただでは置けないぞ
因幡の兎にしてやろか
[#改ページ]
野中のお堂のお地藏さん
まさかねんねぢやあるまいに
赤い着物によだれかけ
おまへは中まで石のはづ
ふざけちやいけないおよこしよ
おいらは寒うて洟が出る
[#改ページ]
足袋の穴から
指が出た
一寸法師の
よごれ顏
へへのの・もへの・と
書いてやれ
[#改ページ]
誰をにらむかおきやがりこぼし
赤い着物をおつ着せられて
お手々あんよもありやしない
ころ/\ころんでおきやがりこぼし
手足どうしたおきやがりこぼし
誰に取られたお手々よあんよ
叩き出されちやころ/\ころび
からだゆすつてむつくり起きる
手足ないのでおきやがりこぼし
ほうり出されちやむつくり起きて
なんだ奴等とハツタとにらむ
赤い着物のおきやがりこぼし
[#改ページ]
チイチク、パツパ
チイパツパ
お腹がすいて
糊なめて
舌を切られた
小雀は
口もきかれず
チイパツパ
ひとりでしくしく
チイパツパ
お宿をさがして
チイパツパ
行つても行つても
宿はなく
こんこん小雪が
降つて來た
野中の家にも
灯がついた
[#改ページ]
猿から貰つた柿の種
だまされたとは知らぬ蟹
ねぢ鉢卷で肥料やる
二葉に芽が出て花が咲く
果がなりやどこから出て來たか
ひよつくり山猿・赤い顏
見事見事とほめそやし
つる/\登つて山猿め
ムシヤ/\頬張る赤い柿
氣のよい蟹はだまされて
下から見上げて待つてれば
甲羅にはぢける青い柿
やれ/\ひどい山猿め
こいつ逃がしてなるものか
仲間の石臼・蜂に栗
大勢味方が集つて
たうとう山猿・赤い顏
チヨン切り落して蒼い顏
[#改ページ]
とるとるづくしではじめましよ
熊と金太郎・すまうとる
こぶとり爺さん・こぶをとる
猿はだまして柿をとる
にぎりめし・柿のたね
蟹のかたきは、みなでとる
ええ、みなでとる!
とるとるづくしではじめましよ
地主はいばつて年貢米とる
金持ア遊んでて利子をとる
あつても無くても税はとる
ブルジヨア・にぎり拳
今においらが、あれをとる
ええ、あれをとる!
[#改ページ]
ころころ、こいつは
なにものだ
叩けばニヨツキリ
首が出た
ムクムク手が出た
足が出た
でつかいお腹は
ビール樽
こいつ、なに食た
なに甜めた
ブンブク茶釜か
お化さん
うつかり側には
寄りつけぬ
あぶない、あぶない
なアに? ――「金持」――
[#改ページ]
突いても引いても
首ふり人形
ちよこんと坐つて
パツチリ見つめ
大きな頭を
コツクリ・コクリ
首ふり人形はなさけない
どうせおもちやの
首ふり人形
聲も立てずに
コツクリ・コクリ
せめて首でも
左へ右へ
首ふり人形はなさけない
[#改ページ]
ねこやなぎ
なんにも食べずに親も子も
生木をかぢつてねこやなぎ
みんな揃つて尻立てて
食へても食へでもねこやなぎ
春の來るのを待つてゐる
[#改ページ]
起てよ
起てよ
集まれ、子供
われ等の旗は
われ等で守らう
なびけ
はためけ
×い旗
進め
進め
手を組め、子供
われ等の道は
われ等で開かう
うねれ
波打て
×い旗
[#改ページ]
出た出た月が森の上
森の上
胡爪のやうに青い月
青い月
蛙は水田でお囃しだ
お囃しだ
カッカッ・クックッ、カックック
カックック
螢は野道で揚げ花火
揚げ花火
可愛い花火がピーカピカ
ピーカピカ
歸ればお家に灯が一つ
灯が一つ
黄ろいランプに蛾が二つ
蛾が二つ
三つ食べたら止しませう
止しませう
御飯は黒うても温かい
温かい
[#改ページ]
のんき坊主のへちまの親子
今日も朝からグウグウグウ
今にもころんで落ちさうな
へちまはだらりと居眠だ
居眠姿の、のんきな親子
頭の先からくさつてしまへ
[#改ページ]
莢豆
はぢけた
赤い豆
こウろころ
いつしよになれ
一つになれ
仲よし
こよし
もとの莢を
忘れな
[#改ページ]
あごひげちよつぴり
お山羊さん
食べても食べても
やせつぽの
お前のお臀の
そのお骨
一膳飯でも
おごりましよ
それとも燒鳥
召し上れ
牛飯ならば
なほよかろ
[#改ページ]
小石けりけり
野道を行けば
カラカラコン・カラカラコン
來た來た犬めが
太つちよの豚と
カラカラコン・カラカラコン
豚も犬めも
ご自慢のおひげ
カラカラコン・カラカラコン
おひげの先には
つばきの提灯
カラカラコン・カラカラコン
ええい、ここらで
小石をチヨンだ
カラカラコン・カラカラコン
おつと見た見た
ワンワンにブーブ
カラカラコン・カラカラコン
[#改ページ]
とんとんとびつこ誰さんだ
となりのびつこのとん吉だ
とん吉とんとんなにしてる
とんとんとなりへ飛んでゆく
となりの子供もとん吉だ
草履と足駄のとんからこ
とんとん飛ぶのは廢兵さん
たんぼの案山子もとんからこ
片脚同志が集つて
とんからとんからとびつこだ
とんとんとびつこ轉びやせぬ
みんなで支えて凭れ合ひ
凭れ合ひ
[#改ページ]
ほら鳴る、鐘だ
早鐘だ
蓑笠姿で飛んで行く
かけ足
はや足
エツサツサ
ほら鳴る、鐘だ
早鐘だ
用意は出來たか、みな出たか
かけ足
はや足
エツサツサ
ほら鳴る、鐘だ
早鐘だ
銅鑼だ、太皷だ、法螺貝だ
かけ足
はや足
エツサツサ
ほら鳴る、鐘だ
早鐘だ
來た來た向ふの村からも
かけ足
はや足
エツサツサ
ほら鳴る、鐘だ
早鐘だ
亂れな、騷ぐな、あわてるな
かけ足
はや足
エツサツサ
ほら鳴る、鐘だ
早鐘だ
遲れな、分れな、離れるな
かけ足
はや足
エツサツサ
[#改ページ]
犬めは
クンクン
小屋から出てくる
ワンと吠え
ワンと吠え
吠えたら這つて來い
わんわん
ここぢや
お手鳴る方へ――
這つて來い
廻つて來い
三べん廻つておぢぎをせ
わんわん
忘れた
元の道を忘れた
あつち、こつち
うウろ、うろ
片脚あげては小便だ
[#改ページ]
おんまコツコ
ハイドード
おんまはマルクス
エンゲルス
リイプクネヒトも
四つん這ひ
乘りては赤毛の
チビのジヤン
おんまコツコ
ハイドード
それ行けおんま
ハイドード
おやぢのマルクス
エンゲルス
リイプクネヒトも
這ひまはる
おんまこつこ
ハイドード
赤毛のチビは
ぶツたたく
おんまは三匹
大急ぎ
スタコラサツサと
這ひまはる
[#改ページ]
一つ、ひだちの山の中
山の中
食へずに出て來たおら子守
二つ、ふた親見捨てたが
見捨てたが
やつぱりここでも食へはせぬ
三つ、みんなはなぐさめる
なぐさめる
今においらの世が來るぞ
四つ、夜ごとに見る夢は
見る夢は
せなかの赤兒に角が出た
五つ、いやでも泣く時は
泣く時は
ねんねん・ころいち・ねんころりん
六つ、胸には火が燃える
火が燃える
朝から晩まで無理ばかり
七つ、なんでも習ひたい
習ひたい
くにへ手紙も書きたいなあ
八つ、宿無し野良の犬
野良の犬
おまへも寒かろ雪が降る
九つ、ここまで出て見れば
出て見れば
工場の汽笛が、あれ鳴るよ
十で、たうとうおさらばだ
おさらばだ
年期があければ身は自由、身は自由
[#改ページ]
揃うた揃うた
齒並が揃うた
齒車をどりの
足並揃うた
環になれ擴がれ
くるくるまはれ
ガラガラ齒車
齒車をどり
ガラガラ・ギツチヤン・ガラガラガラ
ガラガラ・ギツチヤン・ガラガラガラ
朝から晩まで
工場の隅で
油もきれて
お腹もすいて
ガチガチ咬み合ふ
齒と齒のきしみ
おいら齒車
恨みは深い
ガラガラ・ギツチヤン・ガラガラガラ
ガラガラ・ギツチヤン・ガラガラガラ
とつて食べたい
太つちよのお首
捲いて裂きたい
なアがい裳裾
それもならずに
ほこりを浴びて
おいら齒車
恨みは深い
ガラガラ・ギツチヤン・ガラガラガラ
ガラガラ・ギツチヤン・ガラガラガラ
今日も朝から
なんにも食べず
お腹ペコペコ
齒をかみ鳴らす
せめてこわれな
齒並よ齒並
今に明るい
日の目は見える
ガラガラ・ギツチヤン・ガラガラガラ
ガラガラ・ギツチヤン・ガラガラガラ
[#改ページ]
一つとんだ
とんだ
何がとんだ
とんだ
村から里へ
×い旗がとんだ
二つとんだ
とんだ
何がとんだ
とんだ
×い旗の上を
てツぽ丸がとんだ
三つとんだ
とんだ
何がとんだ
とんだ
お×の屋根へ
鎌と鎚がとんだ
四つとんだ
とんだ
何がとんだ
とんだ
まつ紅な火の粉が
天までとんだ
五つとんだ
とんだ
何がとんだ
とんだ
邪魔になるものは
なにもかも、ほらとんだ
[#改ページ]
一イ、二ウ、三イ、四ウ
耳は塞がれ、お口は縫はれ
手枷、足枷、團子にされて
糸をまかれて、しめくくられて
とんとん、ころりと、お手毬さんだ
つけばつくほど、はづんで上る
はづめ、手まりよ、とんとん踊れ
明日は手まりも×××だ
蒼い顏して顫へるお方
どいた、どいたりお手まりさんだ
邪魔をする子はお×りさんか
それでなければ××さんだ
敵と味方はもうよくわかる
もうよくわかる
――受け渡し
[#改ページ]
坊やよ、坊やよ、よくおきき
父さん小さいその時は
お腹がすいてもお米ない
コンコン小雪の降る晩は
ひとりで田圃の雪見てた
コンコン小雪がお米なら
どんなに氣ままに食べらりように
坊やよ、坊やよ、よくおきき
母さん小さいその時は
寒うても[#「寒うても」は底本では「塞うても」]着物はただ一つ
コンコン小雪の降る晩は
ひとりでお屋根の雪見てた
コンコン小雪が綿ならば
どんなにぬくぬく着らりように