どこの国、いずこの地方に行ってもお国自慢というものがある。歴史、人物、料理、産物など、時に応じ、人によってお国自慢の仕方も違う。生椎茸を例にとるなら、やはり例外でなく、京都の人は「京都の生椎茸はどんなもんだい」と誇りがましくいうし、地方の人も「お国の山の椎茸は必ずしも京都に劣らぬ」と負けてはいない。生椎茸にかぎらず、他のどんな産物でも、時間を少しでも経過したものはそれだけまずくてだめだ。お国自慢をする人は、それぞれみな採りたてを食べているから、古いのと比べてみて、そういうのだろう。どんな椎茸でも古くなってはだめで、新しいものでなければいけない。
 しかし、そうはいっても、大分県あたりで採れる椎茸は実に見事で、日本一と叫んでもいいだろう。大分の椎茸は本当の椎の木にできた椎茸なので、かさが黒くなめらかで、香りや味がすばらしい。関東で賞味している椎茸は、実は椎の木にできたものではなく、くぬぎの木にできたものだから本当にうまいとはいえない。椎茸のかさは、そのできる木の皮に似る性質があるので、櫟の木にできた椎茸のかさは櫟の皮と同じようになっており、椎の木にできた椎茸は椎の皮に似ている。
 さて、櫟椎茸だが、これはみごたえがあるという特徴はあるけれども、椎の木にできた椎茸のように香りがない。所詮、椎の木にできた椎茸にまさるものなしといえよう。

底本:「魯山人の美食手帖」グルメ文庫、角川春樹事務所
   2008(平成20)年4月18日第1刷発行
底本の親本:「魯山人著作集」五月書房
   1993(平成5)年発行
入力:門田裕志
校正:noriko saito
2009年12月3日作成
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