一、吉田内閣不信任決議案賛成演説

     一九五三(昭和二十八)年三月十四日 衆議院本会議

 私は、日本社会党を代表いたしまして、ただいま議題になりました改進党並びに両社会党の共同提案による吉田内閣不信任案に対し賛成の意を表明せんとするものであります。
 吉田内閣は、日本独立後初めて行われた総選挙のあとをうけて昨年十月召集され、現に開かれておる第十五国会において成立せる内閣であります。その内閣が、同じ特別国会に於て不信任案が提出され、その間五カ月有余というのでありますから、いかに吉田内閣が独立日本の要望にこたえ得ず、その立っている基盤がいかに脆弱であるかということを示す証左であると思うのであります。以下、不信任案に対する賛成の理由を述べて、各位の賛同を求めたいと思います。
 第一には、第四次現吉田内閣は、独立後初めて成立せる内閣でありますから、独立後の日本をどうするかという抱負経綸が示され、日本国民に独立の気魄を吹き込み、民族として立ち上る気力を与えることが、その務めであるにもかかわらず、吉田内閣積年の宿弊は、独立後の日本の政治を混迷と彷徨の中に追い込んでおるのであります。終戦六年にして独立をかち得た国民は占領下に失われた国民としての自覚をとりもどし、民主主義的な民族として再建に努力せんとの熱意に燃えておるのであります。しかるに、吉田内閣は、この国民の熱情に何らこたえるところなく、いたずらに、外交はアメリカ追随、内政は反動と逆コースを驀進し、進歩的な国民を絶望に追い込むファッショ反動の政治を抬頭せしめ、一面、共産党に跳梁の間隙を与え、左右全体主義への道を開き、祖国と民主主義を危機に直面せしめておるのであります。民族の生気をとりもどし、国民を奮起せしめるためには、まず吉田内閣の打倒から始めなければなりません。これ、わが不信任案賛成の第一の理由であります。
 第二には、日本の完全独立と平和確保のためにその退陣を要求するものであります。お互いの愛する祖国日本は、昨年四月二十八日、独立国家として国際場裡に再出発をしたのであります。現実に独立をした日本の姿を見れば、日米安全保障条約並びに行政協定に基づいて、日本の安全はアメリカの軍隊によって保障され、アメリカ軍人、軍属並びにこれらの家族には、日本の裁判権は及びません。およそ一国が他国の軍隊によってその安全が保障され、その期間が長きに及べば、独立は隷属に転化することを知らねばならぬのであります。日本に居住するものに対し日本の裁判権の及ばざることは、一種の治外法権であって、完全なる独立というわけには参りません。
 加えて、領土問題についてこれを見るに、日本が発展途上に領有いたしました領土は、それぞれその国に帰すことはやむを得ぬとするも、南樺太、千島の領土権を失い、歯舞、色丹島は、北海道の行政区にあるにもかかわらず、ソビエトの占拠するところとなり、奄美大島、沖縄諸島、小笠原、硫黄島等、これらのものは特別なる軍事占領が継続され、百数十万の同胞は、日本の行政の外にあるのであります。まさに民族の悲劇といわなければなりません。しかも、これらの同胞は、一日も早く日本への復帰を望んでおるのであります。
 従って、吉田内閣は、日本の完全独立のために、安全保障条約並びに行政協定の根本的改訂に、最大の努力をなさねばならぬにかかわらず、吉田総理、岡崎外相は、その都度外交と称せられる、アメリカ追従外交を展開し、日本国家の主体性を没却し、行政協定の改訂期を前にして何らの動きを示さず、領土問題についても何ら解決への努力を示さず、その買弁的性格をますます露骨に現わしておるのであります。特に、日本独立後国連軍を無協定のまま日本に駐屯せしめておるその外交の不手際を、断固糾弾しなければならぬと思うのであります。
 また、国際情勢を見れば、アイゼンハワー将軍のアメリカ大統領就任、ダレス氏の国務長官就任、その巻きかえし外交の進展、ソ連スターリン首相の死、マレンコフ新首相の就任と動く中にも、世界は一種の引締って行く姿を見るのであります。世界人類には、依然として平和か戦争かということが重大なる課題となっております。しかるに、対日平和条約に対しては、まだ多くの未調印国家、未批准国家があり、特に一衣帯水のソ連並びに中共との間には戦争の状態が残っておるのであります。かかる中にあって、いかに世界平和に寄与せんとするかということは、日本外交の重大問題であります。これがためには、日本は絶対に戦争に介入しないという一大原則のもとに、自由アジアの解放と、自由アジアと西欧を結ぶ平和のかけ橋となることを日本外交の基本的方針として、自主独立の外交を展開して参らなければなりません。このことは、吉田内閣のごとく、その主体性を没却せる、アメリカ追従外交政策によっては断じて打開ができないのであります。われわれが不信任案に賛成せんとする第二の理由であります。
 第三には、吉田内閣は、占領政策の行き過ぎ是正と称して、わが国民主化に最も必要なる諸制度を廃棄して、戦前及び戦時中の諸制度に還えさんとして、反動逆コースの政治を行わんとしております。われらは、この反動逆コースの政治に断固反対し、その退陣を迫らんとするものであります。およそ占領政策の行き過ぎがあるとすれば、その責任の大半は吉田総理それ自体が負わなければならないのであります。しかも、行き過ぎと称するものは、おおむね進歩的政策であって、是正せんとする方向は、反動と逆コースであります。われらが占領政策の行き過ぎを是正せんとするものは、国会軽視の傾向であり、行政府独善の観念であり、ワン・マンの名によって代表せられたる不合理と独裁の傾向であり、官僚政治の積弊であります。
 しかるに、吉田内閣は、警察法の改正により戦前の警察国家の再現を夢み、全国民治安維持のための警察をして一政党の権力維持のための道具たらしめんとしております。また義務教育学校職員法の制定によって、義務教育費全額国庫負担という美名のもとに、教員を国家公務員として、その政治活動の自由を奪い、教職員組合の寸断、弱体化を期し、封建的教育専制を考慮しておるのであります。労働争議のよってもって起る原因を究明せず、最近の労働争議が吉田内閣の政策貧困から来ていることを意識せず、ただ弾圧だけすれば事足りると考え、電産、石炭産業の労働者のストライキ権に制限を加えるがごときは、労働者の基本的人権を無視したものにして、逆コースもはなはだしいものといわなければなりません。また、農村においては、農地の改革は事実上停止せられ、農業団体再編成の名のもとに官僚的農村支配を復活せんとしており、さらには、独占禁止法の改正によって財閥の復活を意図しておるのであります。今にしてこの反動逆コースを阻止せんとするにあらざれば、日本は財閥独裁、警察国家を再来いたしまして、日本国民の民主的、平和的国家建設の努力は水泡に帰するということを知らなければならぬのであります。これわれらが不信任案に賛成せんとする第三の理由であります。
 第四には、吉田内閣の手によっては、日本の経済の自立と国民生活の安定は期せられません。かかる見地から、吉田内閣の退陣を要求するものであります。民族の独立の蔭には、経済の自立がなくてはなりません。日本は狭き領土において資源少なく、その中に、賠償を払いながら八千四百万の人間が生きて行かなければならぬのであります。これがためには、自由党の自由放任の資本主義経済によっては断じて打開されないと思うのであります。これには、われらの主張いたしますところの計画経済による以外に道はありません。現在、わが国経済界の実情は物資不足の時期は通り過ぎて、物資過剰のときとなって、資本家、企業家は生産制限をたくらんでおります。しかるに政府は、独占禁止法の精神を無視して、その生産制限の要求を容認しております。その結果は物価のつり上げとなって現われて来るのであります。この状態を打開するには、それは国内における購買力の増大が絶対に必要であります。これがためには、勤労者の所得の増大をはかるとともに、一面においては貿易の振興をはかって参らなければなりません。しかるに、吉田内閣の政策は、労働者には低賃金、農民には低米価、中小企業者には重税、貿易政策においてはまったく計画性を持たず、特需、新特需に依存をしておるのであります。
 吉田内閣の農業政策を見るに、米は統制で抑え、肥料は自由販売として、日本の農民には高い肥料を売りつけ、安い米を買い上げ、外国には安い肥料を売って、高い米を輸入しているのであります。一体だれのための農政だか、解釈に苦しむものがあるのであります。農民の熾烈なる要求に申訳的に肥料の値下げをやりましたが、農民の憤激は高まっております。吉田内閣打倒の声は農村に満ち満ちておるといっても過言ではないと思うのであります。労働者、農民、中小企業者の生活安定なくしては、日本の経済の再建はありません。それは労働者を不逞のやからと呼び、貧乏な日本には労働争議はぜいたくといい、中小企業者は死んで行ってもしかたがない、金持ちは米を食って貧乏人は麦を食え、といったような性格の吉田内閣によっては、とうてい望みがたいものといわなければなりません。これわれらが第四に不信任案に賛成する理由であります。
 第五点は、吉田内閣の憲法の精神の蹂躪、国会軽視の事実を指摘して、その退陣を要求するものであります。吉田内閣が、警察予備隊を保安隊に切りかえその装備を充実しつつあることは、憲法第九条の違反の疑い十分なることは、何人といえどもこれを認めるところであります。自衛力の漸増計画に名をかって、あえて憲法の規定を無視し、事実上の再軍備をやっておるのであります。一国の総理が、憲法を勝手に解釈し、その規定を無視するがごとき行動は、まさに専制政治家の態度というべきであります。また、吉田内閣は、これのみにとどまらず、警察法の改正によって、地方自治団体の財産を一片の法令によって、国家に取りあげ、憲法の精神を蹂躪せんとしておるのであります。
 憲法は国家活動の源泉であり、その基準であります。また、憲法第九十九条には、「天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。」と規定しておるのであります。しかるに、吉田内閣は、憲法を軽視し、蹂躪し、ときには無視するがごとき行動をあえてとるのであります。まさに日本民主主義の敵であると思うのであります。民主日本に対する反逆者といって、あえて私は過ぎたる言葉でないと存ずるのであります。
 吉田総理の国会無視の傾向は、第一次、第二次、第三次、第四次内閣と、数え来れば枚挙にいとまがございません。本国会においても、国会無視の発言をなしてこれを取消し、本会議、委員会にはほとんど出席せず、国民の代表とともに国政を論ずるという熱意を欠き、ワン・マン行政部独裁の態度を持っておることは、今更言をまたないところであります。われわれはかつて凶刃に倒れた浜口元民政党総裁が、議会の要求に応じて病を押して出席し、遂に倒れて行った態度と対比してみまして、吉田総理の非民主的な、封建的な行動は、民主的日本の総理として、その資格を欠くものと断じ、われらが憲法を守り、総理の国会軽視を糾弾するのが、不信任案賛成の第五の理由であります。
 第六点は、道義の昂揚、綱紀粛正の面から吉田内閣を弾劾し、不信任案に賛成せんとするものであります。吉田総理は、口を開けば、綱紀粛正といい、道義の昂揚を叫び、本年二月の施政方針の演説の中には、特に道義の昂揚を掲げておるのであります。しかも、吉田内閣のもとでは、綱紀はそれほど紊乱しておらないと強弁されておるが、第十五国会の決算委員会に現れた報告書によれば、昨年度官庁においてむだに使われた金が三十億五千八百万円といわれておる。この数字は、会計検査院の限られたる人手で調査されたものでありますから、実際の数字はこの数倍に上ることと思います。国民の血税がかくのごとく使われておるのでありますから、これ綱紀の頽廃にあらずして何ぞやと私はいいたいのであります。吉田内閣のもとにおいては、あらゆる問題が利権の対象となっておるのであります。只見川問題といい、四日市燃料廠問題といい、炭鉱住宅問題といい、一つとして利権とつながらざるものはございません。
 過日、この壇上において、人格者をもって任ぜられておる閣僚の一人から、待合政治の合理化、さらに妥当性の答弁を聞き、何ら反省の態度を見なかったことは、はなはだ遺憾といわなければなりません。総理みずからは、予算委員会に於て、一国の総理として品位を落すがごとき暴言を口にし、議員並びに国民を侮辱し、懲罰委員会に付せられておるのであります。およそ一国の総理大臣が懲罰委員会に付せられるということは、前代未聞、世界に類例のないことであろうと思うのであります。かかる立場に立った総理でありますならば、その道義的責任を感じて辞職するのが当然であるといわなければなりません。しかるに、多数を頼んで、懲罰委員会においてはその審議を引延ばし、取消せば事は済むというがごとき印象を与えておるのであります。
 政治家にとって最も必要なことは、発言であり、意見の発表であります。一度発言したことに対しては、責任をとるのが政治家のとる態度でなければならぬと私は思っておるのであります。最近吉田内閣の閣僚の中には、取消せば事が済むがごとく考えておる者が多々あることは、はなはだ政治的道徳をわきまえざるものといわなければなりません。さらに、選挙違反の疑い濃厚な者が一国の外務大臣となり、一国の総理大臣が懲罰委員会にかけられておるという現実を見て、これが、日本の独立後の姿かと思い、諸外国が一体いかに考えるかということになりまするならば、国民の一人として冷水三斗という思いがするのであります。
 道義の昂揚は理論ではありません。理屈ではありません。これは実践であります。百万遍の道義の理屈よりも、総理みずから道義的責任を感じて退陣されることが道義昂揚の最上の方法であるといわなければなりません。これ、われらが退陣を迫り、不信任案に賛成する第六の理由であります。
 第七には、自由党の内紛の結果は、すでに自由党が多数党たる資格を失い、政局担当の能力を失っている点を指摘しなければなりません。この事実から、我々は吉田内閣に退陣を迫らんとするものであります。吉田総理は、現在政界の不安定の原因が自由党の内部矛盾の上にあるという事を知らねばなりません。さきに組閣に際してその内情を暴露した自由党は、さらに、池田通産大臣の不信任にあって党内不一致を露呈し、また多数党たる自己政党の総裁を懲罰委員会に付するがごとき、また不信任案上程を前にして内部混乱のごとき姿は、その政党としての機能を失ったものといわなければなりません。すなわち、政界不安定の原因が自由党の内紛であり、その責任の全部が、総裁たる吉田首相の統率力の欠如にあるといわなければなりません。自由党幹部の中には、自由党は、民同派、広川派なきものとして、少数党内閣として事に当らければならないと言明しております。二つの党首を持ち、二つの異なっている政策を持つのが、現実に自由党の姿であるといわなければなりません。多数党たる資格はなくなって、政権担当の任務は終ったのであります。もはや多数党としての権利を主張し、その責任をとらんとしても不可能であります。自由党が多数党としての資格を失っている以上、内閣が退陣をすることが当然であるといわなければなりません。
 最後に申し上げたいことは、終戦後八年、内閣のかわる事八回、そのうち、吉田茂氏が内閣を組織すること四回であります。その期間五年六カ月に及んでおります。そうして、その任命せる大臣六十余名、延べ百三十余名といわれ、吉田総理のワン・マンぶりは徹底して、すでに民心は吉田内閣を去っております。今こそ人心一新のときであります。吉田内閣の退陣は国民の要望するところであります。吉田内閣の退陣が一日早ければ、それだけ国家の利益は益すということになるのであります。吉田総理も、政権に恋々とせず、しりぞくべきときにはしりぞくべきだと思います。今まさにその時であります。政治家はそのときを誤ってはなりません。しかるに吉田内閣並びにその側近派は、解散をもって反対党を恫喝しております。われらまた、解散もとより恐れるものではありません。しかし、自由党の内紛によってさきに国会が解散され、さらに半年を経ざる今日、同じ理由をもって、総理指名の議決を受けた特別国会を解散するというがごときは、天下の公器たる解散権を自己政党の内紛鎮圧に利用せんとするものであり、われら、これは北村君がいうがごとく一種のクーデターであると断言するものであります。さきに、政府方針の質問演説の際、我党の三宅正一君が、解散すべきは国会にあらずして自由党そのものであると喝破したものでありますが、まさにその通りであります。われらは、この際、吉田内閣は総辞職し、自由党は出直すべきときであると考えるのであります。ここに、吉田内閣退陣を強く要求いたします。
 以上をもちまして、私の吉田内閣不信任案に対する賛成演説を終るのでありますが、各位の賛同を心よりお願いいたす次第であります。

二、政治協商会議講堂における講演

     一九五九(昭和三十四)年三月十二日 社会党第二次訪中使節団々長として

 中国の友人の皆さん、私はただいまご紹介にあずかりました日本社会党訪中使節団の団長浅沼稲次郎であります。私どもは一昨年四月まいりまして今回が二回目であります。一昨年まいりましたときも人民外交学会の要請で講演をやりましたが、今回はまた講演の機会をあたえられましたので要請されるままにこの演壇に立ちました。つきましては私はみなさんに、日本社会党が祖国日本の完全独立と平和、さらにはアジアの平和についていかに考えているかを率直に申しあげたいと存じます。(拍手)

 今日世界の情勢をみますならば、二年前私ども使節団が中国を訪問した一九五七年四月以後の世界の情勢は変化をいたしました。毛沢東先生はこれを、東風が西風を圧倒しているという適切な言葉で表現されていますが、いまではこの言葉は中国のみでなく世界的な言葉になっています。いま世界では、平和と民主主義をもとめる勢力の増大、なかんずくアジア、アフリカにおける反植民地、反帝国主義の高揚は決定的な力となった大勢を示しています。(拍手)もはや帝国主義国家の植民地体制は崩れさりつつあります。がしかし極東においてもまだ油断できない国際緊張の要因もあります。それは金門、馬祖島の問題であきらかになったように、中国の一部である台湾にはアメリカの軍事基地があり、そしてわが日本の本土と沖縄においてもアメリカの軍事基地があります。しかも、これがしだいに大小の核兵器でかためられようとしているのであります。日中両国民はこの点において、アジアにおける核非武装をかちとり外国の軍事基地の撤廃をたたかいとるという共通の重大な課題をもっているわけであります。台湾は中国の一部であり、沖縄は日本の一部であります。それにもかかわらずそれぞれの本土から分離されているのはアメリカ帝国主義のためであります。アメリカ帝国主義についておたがいは共同の敵とみなしてたたかわなければならないと思います。(拍手)
 この帝国主義に従属しているばかりでなく、この力をかりて、反省のない、ふたたび致命的にまちがった外交政策をもってアジアにのぞんでいるのが岸内閣の外交政策であります。それは昨年末とくに日米軍事同盟の性格を有する日米安保条約の改定と強化をし、更に将来はNEATOの体制の強化へと向わんとする危険な動きであります。この動きは中国との友好と国交正常化を阻害しようとする動きでもあります。これらの動きはあるいは警職法反対の日本国民のたたかいや平和を要求する国民の勢力によって動揺しつつあるが、しかし、これが今日、日中関係の不幸な原因を作っている根本になっています。以上の日米安保条約の改定と日中関係の不幸な状態とは、いずれも関係しあって岸内閣の基本的外交方針であり、アメリカ追随の岸内閣の車の両輪であります。それは昨年末のNBCブラウン記者にたいする岸信介の放言において彼みずからがこれをはっきりと裏書きしております。これらの政策を根本的に転換させてアジアに平和体制を作る方向に向かわないかぎり、日本国民に明るい前途はなく、ここにもまた日中両国民にとって緊急かつ共通の課題がございます。
 このような問題をいかに解決するかという点に関し中日関係について申上げまするならば、昨年五月いらい岸内閣の政策によって中日関係はきわめて困難な事態におちいりました。それまでは、国交回復はおこなわれていないにかかわらず、中国と日本においてはさきに私と張奚若先生との共同声明をはじめとしまして数十にあまる友好と交流の協定を結び、日本国民もまた国交回復をめざしながら懸命に交流、友好の努力をつみかさねてまいりました。しかしついに中絶状態におちいったのであります。このことにつきましては日本国民は非常な悲しみを感じ、かつ岸内閣に鋭い怒りを感じているものであります。(拍手)ここでわが党の参議院議員佐多忠隆君が貴国を訪問して三原則、三措置、すなわち、(1)ただちに中国を敵視する言動と行動を中止しふたたびくりかえさないこと (2)二つの中国をつくる陰謀をやめること (3)中日両国の正常な関係の回復をはばまないこと――これを受けとり、これを正確に国民大衆につたえたのであります。
 これにもとづきましてわが社会党は一九五八年九月に新しい日中関係打開の基本方針の決定をいたしました。すなわちその項目はつぎのとおりであります。岸内閣の政策転換の要求、(1)二つの中国の存在を認めるが如き一切の行動をやめ中華人民共和国との国交の回復を実現する (2)台湾問題は中国の内政問題であり、これをめぐる国際緊張は関係諸国のあいだで平和的に解決する (3)中国を対象とするNEATOのごとき軍事体制には参加しない (4)日本国内に核兵器を持ちこまない (5)国連その他の機構をつうじ中華人民共和国の国連代表権を支持する (6)長崎における国旗引きおろし事件にたいしては陳謝の意を表し今後中華人民共和国の国旗の尊厳を保障するため万全の措置を講ずる (7)友好と平和とを基礎にする人的、文化的、技術的、経済的交流を拡大し国交正常化を妨害することなくこれに積極的支持と協力をあたえる。とくに第四次貿易協定の完全実施を実現する。さらに台湾海峡をめぐる問題にかんしていえば、蒋介石グループにたいする軍事的支援、とくに台湾に米軍を駐屯することがアジアに緊張を激化するものであるとして、日本政府にたいしては慎重なる態度をとることを要請したのであります。(拍手)
 さらにまた社会党は以上の基本方針にもとづきまして日中国交回復、正常化のために国民運動を展開し、もりあげることにいたしました。その要項は、第一、岸政府の政策の全面的転換を実現するためにすべての国民の力を広範に結集し、強力な運動を展開する。第二、現在の岸政府をもってしては現状の打開はきわめて困難であることの認識に立ち、長期かつねばり強い運動を展開できる態勢を整える。第三、この運動をするにあたっては原水爆反対、沖縄返還、軍事基地反対、憲法擁護などの運動と密接に提携してすすめる。第四、わが党は労働組合、農民組合、青年婦人団体、各経済・文化・民主団体などを結集して財界、保守党の良心分子にいたるまで運動に参加せしめる、とくにわが党が協力している中日国交回復国民会議を強化し、これを通じ積極的に運動を展開する。
 わが党は以上のごとき国民運動および日本の岸政府にたいする政策転換のたたかいをもとめまして、中国側にたいしても浅沼・張奚若先生との共同コミュニケの精神にのっとり日中関係の改善にたいし積極的な協力をもとめる、こういうふうにしたわけであります。さらに去年四月の日本社会党中央委員会ではいままでの軍事基地反対運動、平和憲法擁護運動、原水爆禁止運動、沖縄返還および日中国交回復国民運動と日米安保条約体制打破の国民運動を、とくに本年におきましては日中国交回復国民運動と日米条約体制打破の国民運動に力を結集してたたかうことを決定したのであります。さらにこの運動の一環として時期をみて日本社会党の訪中使節団を送ることを決定しました。それは、いかに不幸な事態においても中日両国民のあいだの友好と交流はたえず努力していかねばならないこと、またそれによって岸内閣の政策に反対する中日両国民の国交回復運動が大きく前進することを期待しているためにほかならないのであります。(拍手)

 この決定にもとづいて私たち使節団はふたたび中国を訪問したわけでありますが、同時に訪中の目的のためには、中国の姿をありのままに沢山みて、その姿を正しく日本の勤労大衆、国民につたえるためであります。私どもが日本を発つにあたって日本において民主団体、平和団体は日中国交回復の国民大会をひらいて次のごとき決議を決定いたしました。そしてわれわれ使節団を激励してくれたのであります。いま参考までに決議文を朗読してみます。
 決議。政府は現在安保条約を改定する方針を明らかにしている。この改定は現行の安保体制を固定化するだけでなく、日本自からの意志でアメリカの軍事ブロックに参加することを再確認し、さらにアメリカとの共同防衛体制に公然と加入することになり、日本の軍事力の増強とアメリカへの軍事的義務の遂行を強制されることによって海外派兵はさけられなくなり、憲法第九条はまったく空文化することになる。とくにこの改定によってアメリカの核兵器持ちこみを許し日本が自ら核武装への道を歩むことは明らかであり、その結果中日関係は決定的事態におちいり、現在の日中関係の打開はおろか、国交回復は最も望みえないものになることもまた明らかである。日本の平和と繁栄を望みいかなる国とも平等に友好関係を保持することを望むわれわれは、かかる危険な安保体制とその遂行のために企図されている秘密保護法、防諜法制定の動きや、警職法改悪にあらわれた国民の基本的人権と自由の圧迫、軍事力強化にともなう国民生活の破壊などにたいして断固としてたたかわなければならない。われわれは昨年警職法改悪の意図を粉砕した経験と成果をもっている。このエネルギーはいまなお国民一人一人の中に強く燃えつづけ、たたかえば勝てるという確信はいよいよたかまりつつある。この集会に結集したわれわれは決意をあらたにしてあらゆる階層とその要求、行動を統一して安保条約改定を断固阻止し、すすんで安保条約を解消し、アメリカのクサリを断固切り、平和政策を樹立し、中日国交回復を実現しよう。右決議する。
 これが内容です。(拍手)この決議にもられているものは、平和と民主主義を愛し、一日も早く中日の国交回復をやりたいという日本国民の熱烈な願望でございます。(拍手)
 私ども中国にまいりましてから約一週間になりました。私たちは人民外交学会をはじめとして中国の皆さんの確固たる原則的態度と同時に大きな友情を感じております。とくに過日農業博覧会において農作物の爆発的な増産をする姿をみ、また工場建設の飛躍的な発展をみまして、とくに人民公社に深い感銘をおぼえたのであります。今後多くの日本国民とりわけ農民諸君が中国にきて、論より証拠のこの実情を目のあたりみられるようにしたいと考えております。(拍手)

 今後中日両国民のあいだにおける重要な問題は、なによりも私たちが、日本における中日国交回復の国民運動を三原則の正しい方針のもとに力強くもりあげて、岸政府の反動政策を打破しさることが第一であると確信しております。しかしそれだけでは日本国民のアジアにたいする責任は解決されません。アジア全体の脅威はどうなっているかと申しあげまするならば、外国の軍事基地を日本と沖縄からなくさなければアジアにおける平和はこないことを私どもは感じます。それは私どもの責任と思っているわけであります。そのため社会党は安保条約体制の打破を中心課題としてたたかっているのであります。この安保条約を廃棄させて日本の平和の保障が確立するならば、すなわち日本が完全独立国家になることができまするならば、中ソ友好同盟条約中にあるところの予想される日本軍国主義とその背後にある勢力にたいする軍事条項もおのずから必要はなくなると私どもは期待をするのであります。そうしてさらに中ソ日米によるアジア全体の全般的な平和安全保障体制を確立して日本とアジアに永久平和がくることを日本の社会党はつねに念願としてたたかっているのであります。(拍手)昨年末この日本社会党の一貫した自主独立、積極的中立政策について中ソ両国が再確認をしたことにたいしましては、私ども平和外交の前進のために心から喜ぶものであります。
 このようなアジアと日本の平和のためにはまず中国と日本との国交の回復がなされなければなりません。中国は一つ、台湾は中国の一部であります。中国においては、六億八千万の各位が中華人民共和国を作りあげておるのであります。日本はこの中華人民共和国とのあいだに国交を回復しなければなりません。また中華人民共和国が国際連合に加盟することも当然と信じます。また同時に日本と台湾政府のあいだにある日台条約は解消されるのが必然であると私どもは考えております。(拍手)日本は戦争で迷惑をかけた国々とのあいだに平和を回復し大公使を交換しています。しかるに満州事変いらい第二次世界戦争が終るまでいちばん迷惑をかけた中国とのあいだには国交が回復しておりません。それは保守党政策のあやまりであります。はなはだ遺憾と存ずるしだいであります。
 私ども社会党は、一日も早く中国との国交回復をのぞんでやみません。元来、日本外交の過失はどこにあるかと考えてみまするならば、つねに遠くと結んで近くのものに背を向けたところにあったと思います。明治年間には遠くイギリスと日英同盟を結んでアジアにおける番兵のごとき役割をはたし、第二次世界戦争のさいはこれまた遠くドイツ、イタリアと軍事同盟を結び中国ならびに東南アジア諸国に背を向け、軍事的侵入を試み帝国主義的発展をなしたところに大失敗があったといわなければならないと思うのであります。いままたアメリカと結び、アメリカの東南アジアへの帝国主義的発展の媒介的な役割を果そうとしております。これは私どもが厳に政府にたいして警告し、これの転換をせまっているのであります。わが社会党はかかる外交方針に反対をいたします。すなわち、遠くと結び近くを攻めるという遠交近攻の政策より善隣友好の政策へと転換すべきであると思います。すなわち、いずれの国とも友好関係を結ぶことはもちろんでありますが、いずれの陣営にも属さず自主独立・善隣友好の外交、すなわち中国との国交正常化、アジア・アフリカ諸国との提携の強化、世界平和のために外交政策を推進しなければならないと考えているものであります。(拍手)
 つぎに経済的には日本と中国は一衣帯水でかたく結ばなければならないと思います。現在日本経済はアメリカとの片貿易の上に立ちアメリカの特需の上に立っているのであります。またMSA協定にもとづく余剰農産物の輸入は、これまたアメリカと結び、アメリカの戦争経済に依存している姿であると私どもは考えさせられます。これにたいして一種の不安を感じています。経済の自立のないところに民族の自立はありません。日本が完全なる自主独立の国家として生きるためには、対米依存から脱却しなければなりません。日本が本来一つであるべきアジアと完全に一致せずアメリカの特需や輸入調達にもとづいているところに、今日の不幸な状態が生れ、またこれが背景となって岸内閣の反動的政策の経済的基礎となっていることも事実であろうと信ずるのであります。したがって、私どもは岸内閣に対し社会党への政権の引渡しをせまり、根本的な政策転換と中日国交回復をおこなった上、躍進しつつある中国の第二次五カ年計画と結びついた安全性のある中日貿易の交流、アジア諸国との経済協定の飛躍的な前進を期待しているものであります。(拍手)かくて日本は独立・中立政策の経済の基礎を確立して、その重工業の技術、設備、飛行機工場にいたるまで平和なアジアの建設のために奉仕するようにしたいと考えるものであります。
 私たちはこのように平和と友好の願いをもって中国へまいりました。みなさんとアジアは一つであるというかたい友情の交歓をいたしまして帰国いたしますと、私たちは国会において岸内閣不信任案の提出、さらにつづいて私たちの中国訪問の報告を全国に遊説し、さらにまた四月からおこなわれまするところの地方選挙、参議院選挙が待っているのでありまして、この二つの選挙闘争も、国会の解散と岸内閣を倒す、これに集中してたたかいをすすめてまいりたいと考えているものであります。(拍手)このたたかいは、われわれが前進をするか、彼らが立ちなおるかの大きなわかれ目に立っているのであります。しかし最近、日本においては平和と革新の力が強まれば強まるほど、岸内閣は資本家階級と一体となってこれに対抗して必死の努力をかまえてきております。私たちはこのたたかいを必ずかちぬきたいと考えるわけであります。今後の政局と政策の根本的な転換をかちとるためにどうしてもかちぬかなければならないと思うのであります。中国ならびに全アジアのみなさんとともにアジアの平和とさらに世界の平和のためにもたたかいぬいてまいりたいと考えております。(拍手)

 最後に申し上げたいと思いますことは、一昨年中国にまいりましたさいに毛沢東先生におあいいたしまして、そのときに先生はこういうことをいわれたのであります。中国はいまや国内の矛盾を解決する、すなわち資本主義の矛盾、階級闘争も解決し、帝国主義の矛盾、戦争も解決し、封建制度の矛盾、人間と人間の争い、これを解決して社会主義に一路邁進している。すなわちいまや中国においては六億八千万の国民が一致団結をして大自然との闘争をやっているんだということをいわれたのであります。私はこれに感激をおぼえて帰りました。今回中国へまいりまして、この自然との争いの中で勝利をもとめつつある中国人民の姿をみまして本当に敬服しているしだいであります。(拍手)植林に治水に農業に工業に中国人民の自然とのたたかいの勝利の姿をみるのであります。揚子江にかけられた大鉄橋、黄河の三門峡、永定河に作られんとする官庁ダム、さらに長城につらなっているところの緑の長城、砂漠の中の工場の出現、鉄道の建設と、飛躍しております姿をあげますならば枚挙にいとまありません。つねに自然とたたかいつつある人民勝利の姿があらゆる面にあらわれているのであります。(拍手)
 人間本然の姿は人間と人間が争う姿ではないと思います。階級と階級が争う姿ではないと思います。また民族と民族が争って血を流すことでもないと思います。人間はこれらの問題を一日も早く解決をして、一切の力を動員して大自然と闘争するところに人間本然の姿があると思うのであります。このたたかいは社会主義の実行なくしてはおこないえません。中国はいまや一切の矛盾を解決して大自然に争いを集中しております。ここに社会主義国家前進の姿を思うことができるのであります。このたたかいに勝利を念願してやみません。(拍手)われわれ社会党もまた日本国内において資本主義とたたかい帝国主義とたたかって資本主義の矛盾、帝国主義の矛盾を克服して国内矛盾を解決し次には一切の矛盾を解決し、つぎに一切の力を自然との争いに動員して人類幸福のためにたたかいぬく決意をかためるものであります。(拍手)
 以上で講演を終ります。ご謹聴を感謝申上げます。(拍手)
 躍進中国の社会主義万才(拍手)
 中日国交回復万才(拍手)
 アジアと世界の平和万才(拍手)

三、最後の演説

     一九六〇(昭和三十五)年十月十二日 日比谷公会堂・三党首立会演説会

 諸君、臨時国会もいよいよ十七日召集ということになりました。今回開かれる国会は、安保条約改定の国民的な処置をつけるための解散国会であろうと思うのであります。この解散、総選挙を前にいたしまして、NHK、選挙管理委員会、さらには公明選挙連盟が主催をいたしまして自民、社会、民社の代表を集めて、その総選挙に臨む態度を表明する機会を与えられましたことを、まことにけっこうなことだと考え、感謝をするものであります。以下、社会党の考えを申し上げてみたいと思うのであります。
 諸君、政治というものは、国家社会の曲がったものをまっすぐにし、不正なものを正しくし、不自然なものを自然の姿にもどすのが、その要諦であると私は思うのであります。しかし現在のわが国には、曲がったもの、不正なもの、不自然なものがたくさんあります。そこで私は、そのなかの重大な問題をあげ、政府の政策を批判しつつ社会党の立場を明らかにしてまいります。
 第一は、池田内閣が所得倍増をとなえる足元から物価はどしどし上がっておるという状態であります。月給は二倍になっても、物価は三倍になったら、実際の生活程度は下がることはだれでもわかることであります。池田内閣は、その経済政策を、日本経済の成長率を九%とみて所得倍増をとなえておるのであります。これには多くの問題を内包しております。終戦後、勤労大衆の苦労によってやっと鉱工業生産は戦前の三倍になりましたが、大衆の生活はどうなったか、社会不安は解消されたか、貧富の差は、いわゆる経済の二重構造はどうなったか、ほとんど解決されておりません。自民党の河野一郎君も、表面の繁栄のかげに深刻なる社会不安があると申しております。かりに池田内閣で、十年後に日本の経済は二倍になっても、社会不安、生活の不安、これらは解消されないと思うのであります。たとえば来年は貿易の自由化が本格化して七〇%は完成しようとしております。そのために、北海道では大豆の値段が暴落し、また中小下請工場は単価の引き下げに悩んでおります。通産省の官僚が発表したところによっても、貿易の自由化が行なわれれば、鉱工業の生産に従事する従業員は百三十七万人失業者が出るであろうといわれておるのであります。まったく所得倍増どころの話ではありません。現在、日本国民は、所得倍増の前に物価倍増が来そうだと、その不安は高まっております。その上、池田総理は、農村を合理化するために六割の小農を離村せしむる、つまり小農切り捨てをいっております。このうえに農村から六百万有余の失業者が出たら、いったいどうなるのでありましょうか。来年のことをいうとオニが笑うといっておりますが、これではオニも笑えないだろうと思うのであります。
 物価をきめるにしても、金融や財政投融資、これらのものの問題につきましては、とうぜん勤労大衆の代表者が参加し、計画的経済のもと、農業、中小企業の経営の向上、共同化、近代化を大にして経済政策の確立が必要であります。政府の発表でも、今年度の自然増収は二千百億円、来年度は二千五百億であると発表しております。この自然増収というものは、簡単にいえば税金の取り過ぎのものであります。国民大衆が汗水を流して働いたあげくかせいだ金が余分に税金として吸い上げられているわけであります。池田総理は、この大切な国民の血税の取り過ぎを、まったく自分の手柄のように考えて、一晩で減税案はできると自慢をしておりますが、自然増収はなにも政府の手柄でなく、国民大衆の勤労のたまものであります。(拍手)したがって国民にかえすのがとうぜんであります。さらに四年後には再軍備増強計画は倍加されて三千億になるといわれております。
 わが社会党は、これを中止して、こうした財政を国民大衆の平和な暮らしのために使え、本然の社会保障、減税に使えと主張するものであります。(拍手)
 池田総理は、投資によって生産がふえ、生産がふえれば所得がふえ、所得がふえれば貯蓄がふえ、貯蓄がふえればまた投資がふえる、こういっておるのでありますが、池田総理のいうように、資本主義の経済が循環論法で動いていたら、不景気も、恐慌も、首切りも、賃下げもなくなることになります。しかしながら――しかしながら、どうでしょうか。戦後十五年間、この間三回にわたる不景気がきておるのであります。なぜ、そういうことになるかといえば、生産が伸びた割に国民大衆の収入が増加しておらない、ところで、物が売れなくなった結果であります。したがってほんとうに経済を伸ばすためには、国民大衆の収入をふやすための社会保障、減税などの政策が積極的に取り入れられなければならぬと思うのであります。
 ところで最近では、政府の社会保障と減税とは、最初のかけ声にくらべて小さくなる一方、他方大資本家をもうけさせる公共投資ばかりがふくらんでおるのであります。こんな政策がつづいてまいりましたならば、不景気はやってこないとだれが保障できるでありましょうか。池田総理は、財源はつくりだすものであるといっておりますが、財源は税金の自然増収であります。日本社会党は、社会保障、減税の財源として自然増収によるばかりでなく、ほんとうの財源を考えておるのであります。
 その一つは、大企業のみ税金の特別措置をとっておる、措置法を改正して、大企業からもっとより多く税金をとるべきであると、私どもは主張するのであります。(拍手)
 ここで一言触れておきたいと思いますることは、来年四月一日より実施されんとする国民年金法の問題であります。本年政府は準備しておりまして、二十歳以上から百円、三十五歳になったならば百五十円と五十九歳まで一ぱい積んで、六十五歳から一カ月三千五百円の年金を支給しようというのであります。二十歳から百円、三十五歳から百五十円と五十九歳までかけると五分五厘の複利計算で二十六万有余円になるのであります。それを六十五歳からは三千五百円支給してもらうということは、自分で積み立てた金を自分でもらうということになって、これは私は、社会保障というよりかも、一種の社会保険、保険制度であろうと思うのであります。しかも死亡すれば終りという多くの問題を含んでおります。社会党としては、その掛金は収入によって考えて、さらに国民年金の運営については、その費用は国家が負担し、積立金も勤労国民大衆のために使う、この福祉に使うということを主張しておるのであります。したがいまして、この実施を一年ないし二年延期をいたしまして、りっぱな内容あるものにして実施をすべきであると強く主張しておるものであります。
 第二は、日米安全保障条約の問題であります。いよいよ解散、総選挙でありますが、日米安全保障条約に関して、主権者たる国民がその意思表示をなすということになっておるのであります。いわば今度の選挙の意義は、まことに重大なものがあろうと思うのであります。アメリカ軍は占領中をふくめて、ことしまで十五年日本に駐留をいたしましたが、条約の改正によってさらに十年駐とんせんとしておるのであります。外国の軍隊が二十五年の長きにわたって駐留するということは、日本の国はじまっていらいの不自然なできごとであります。インドのネールは「われわれは外国の基地を好まない。外国の基地が国内にあることは、その心臓部に外国の勢力が入り込んでいるようなことを示すものであって、常にそれは戦争のにおいをただよわす」こういっておるのでありますが、私どももまったく、これと同じ感じに打たれるのであります。(拍手)
 日米安全保障条約は昭和二十六年、対日平和条約が締結された日に調印されたものであります。じらい日本は、アメリカにたいして軍事基地の提供をなし、アメリカは日本に軍隊を駐とんせしめるということになったのであります。日本は戦争がすんでから偉大なる変革をとげたのであります。憲法前文にもありますとおり、政府の行為によって日本に再び戦争のおこらないようにという大変革をとげました。第一は主権在民の大原則であります。第二には言論、集会、結社の自由、労働者の団結権、団体交渉権、ストライキ権が憲法で保障されることになったのであります。第三は、憲法第九条で「国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」これがためには陸海空軍一切の戦力は保有しない、国の交戦権は行使しないと決定をしたのであります。この決定によって、日本は再軍備はできない、他国にたいして軍事基地の提供、軍事同盟は結ばないことになったはずであります。しかるに日米安全保障条約の締結によって大きな問題を残しておるのであります。日本がアメリカに提供した軍事基地、それはアメリカの飛び地のようなものであります。その基地の中には日本の裁判権は及ばない、その基地の中でどんな犯罪が行なわれましても、日本の裁判権は及ばないのであります。(拍手)
 また日本の内地において犯罪を犯した人が基地の中へ飛び込んでしまったら、どうすることもできない。まさに治外法権の場所であるといわなければならぬと私は思うのであります。(拍手)
 このような姿は完全なる日本の姿ではありません。これが、はじめ締結された当時においては七百三十カ所、四国大のものがあったのであります。いまでも二百六十カ所、水面を使っておりまする場所が、九十カ所ある。これは日本完全独立の姿ではないと私は思うのであります。(拍手)
 さらにここには、アメリカに軍事的に日本が従属をしておる姿が現われておるといっても、断じて過言ではないと私は思うのであります。(拍手)
 そればかりではない。この基地を拡大するために、日本人同士が血を流し合う、たとえば立川飛行場は、現在アメリカの基地になっておる、このアメリカの基地を拡大するために、砂川の農民の土地を取り上げようとする、砂川の農民は反抗する、そうすると調達庁の役人は警察官をよんでまいりまして、これを弾圧する。農民の背後には日本の完全独立を求める国民があって支援する。そうやって、おたがいにいがみ合って血を流し、日本の独立はアメリカの飛び地を拡大するために、日本人同士が血を流さなければならぬという矛盾を持っておる独立であるといっても、断じて過言ではないと私は思うのであります。(拍手)
 したがいまして日本が完全独立国家になるためには、アメリカ軍隊には帰ってもらう、アメリカの基地を返してもらう、そうして積極的中立政策を行なうことが日本外交の基本でなければならぬと思うのであります。ところが岸内閣の手によって条約の改定が行なわれ、この春の通常国会で自民党の単独審議、一党独裁によって批准書の交換が行なわれたのであります。これによって日本とアメリカとの関係は、相互防衛条約を結ぶことになった。そうして戦争への危険性が増大をしてまいったのであります。
 さらに加えて、日本はアメリカにたいして防衛力の拡大強化をなすという義務をおうようになりまして、生活的には増税となって圧迫をうけ、おたがいの言論、集会、結社の自由もそくばくをうけるという結果を招来しておるのであります。(拍手)
 さらにわれわれが心配をいたしまするのは、防衛力の増大によって憲法改正、再軍備、徴兵制度が来はしないかということを心より心配するものであります。しかも防衛力の拡充については、日米間において協議をするということになっておりますから、一歩誤まれば、ここらから私はアメリカの内政干渉がきはしないかという心配をもつものであります。いずれにいたしましても、われわれは、このさいアメリカとの軍事関係は切るべきであろうと思う。同時に中ソ両国の間にある対日軍事関係も切るべく要求すべきであろうと思うのであります。そうして日本とアメリカとソビエトと中国、この四カ国、いわば両陣営を貫いた四カ国が中心になって、新しい安全保障体制をつくることが日本外交の基本でなければならぬと、私は主張するものであります。(拍手)
 諸君、もう一つの根源をなすものは、おたがいの独立は尊重する、領土は尊重する、内政の干渉をやらない、侵略はしない、互恵平等の立場にたって、そうして新しい安全保障体制というのがとうぜんでなければならぬと私は思うのであります。ある意味あいにおきまして、私どもはこんどの選挙をつうじまして、この安保条約の危険性を国民に訴えまして、議会においてはああいう状態になっておるけれども、日本の主権者たる国民が安保条約に対して正しき立場を投票に表わすのが、主権者の任務なりと訴えてまいりたいと考えております。
 第三の問題は、日本と中国の関係であります。日本は第二次世界大戦が終わるまで、最近五十年の間に五回ほど戦争をやっております。そのところがどうであったかと申しまするならば、主として中国並びに朝鮮において行なわれておるのであります。満州事変いらい日本が中国に与えた損害は、人命では一千万人、財貨では五百億ドルといわれております。これほど迷惑をかけた中国との関係には、まだ形式的には戦争の状態のままであります。これは修正をされていかなければならぬと思うのであります。現在、日本と台湾とを結んで日華平和条約がありまするが、これで一億人になんなんとする中国のかなたとの関係が正常化されたと考えることは、非常に私は無理もはなはだしいといわなければならぬと思うのであります。中国は一つ、台湾は中国の一部であると私どもは考えなければならぬのであります。(拍手)
 したがって日本は一日も早く中国との間に国交を正常化することが日本外交の重大なる問題であると思うのであります。しかるに池田内閣は、台湾政府との条約にしがみついて、国連においては、中国の代表権問題にかんして、アメリカに追従する反対投票を行なっているのであります。まさに遺憾しごくなことであるといわなければなりません。われわれはいま国連の内部の状況をみるときに、私どもと同じように中立地域傾向が高まっておるということを見のがしてはならぬと私は思うのであります。(拍手)
 もしアジア、アフリカに中立主義を無視して、日本がアメリカ追従の外交をやっていけば、アジアの孤児になるであろうということを明言してもさしつかえないと思うのであります。(拍手)
 諸君、さいきん中国側においては、政府の間で貿易協定を結んでもいいといっておるのであります。池田総理は、共産圏との貿易はだまされるといっておるのでありまするが、一国の総理大臣からこういうようなことをきけば、いかがであろうかと思うのであります。池田総理は口を開けば、共産圏から畏敬される国になりたいといっている。これでは畏敬どころではない。軽蔑される結果になりはしないかと思うのでありまして、はなはだ残念しごくといわなければならないと思うのであります。自民党のなかにも、石橋湛山氏、松村謙三氏のように常識をもち、よい見通しをもった方々がおるのであります。(拍手)
 かつて鳩山内閣のもとにおいて日ソ国交が正常化するについて、保守陣営には多くの反対がありました。社会党は積極的に支持したのであります。われわれは保守陣営のなかでも、中国との関係を正常化することを希望して行動する人がありますならば、党派をこえて、その人を応援するにやぶさかでないということを申し上げておきたいと思うのであります。(拍手)
 第四は、議会政治のあり方であります。さいきん数年間、国会の審議は、ときに混乱し、ときには警官を議場に導入して、やっと案の通過をはかるというようなことさえ起こりました。いったい、こんな凶暴な事態が、こんな異常な事態がなぜ起こるかということを、われわれは考えてみなければならぬと思うのであります。国会の審議をみましても、社会党は政府ならびに自民党の提出します法案のうち、約八割はこれに賛成をしておるのであります。わが党が反対しておる法案は、警察官の職務執行法とかあるいは新安保条約とか、わが国の平和と民主主義に重大な影響を与えるものに対して、この大部分に対して私どもは反対しておるのであります。政府が憲法をこえた立法をせんとするものが大部分であります。日本社会党がこれらのものに本気になって反対しなかったら、わが国の再軍備はもっと進み、憲法改正、再軍備、お互いの生活と権利はじゅうりんされるような結果になってきておったといっても断じて私はいいすぎではないと思うのであります。
 諸君、議会政治で重大なことは警職法、新安保条約の重大な案件が選挙のさいには国民の信を問わない、そのときには何も主張しないで、一たび選挙で多数をとったら、政権についたら、選挙のとき公約しないことを平気で多数の力で押しつけようというところに、大きな課題があるといわなければならぬと思うのであります。(拍手。場内騒然)
〈司会〉会場が大へんそうぞうしゅうございまして、お話がききたい方の耳に届かないと思います。だいたいこの会場の最前列には、新聞社の関係の方が取材においでになっているわけですけれども、これは取材の余地がないほどそうぞうしゅうございますので、このさい静粛にお話をうかがいまして、このあと進めたいと思います。(拍手)それではお待たせいたしました、どうぞ――
(浅沼委員長ふたたび)選挙のさいは国民に評判の悪いものは全部捨てておいて、選挙で多数を占むると――
(このとき暴漢がかけ上がり、浅沼委員長を刺す。場内騒然)
〈以下は浅沼委員長がつづけて語るべくして語らなかった、この演説の最終部分にあたるものの原案である〉
――どんな無茶なことでも国会の多数にものをいわせて押し通すというのでは、いったい何のために選挙をやり、何のために国会があるのか、わかりません。これでは多数派の政党がみずから議会政治の墓穴を掘ることになります。
 たとえば新安保条約にいたしましても、日米両国交渉の結果、調印前に衆議院を解散、主権者たる国民に聞くべきであったと思います。しかし、それをやらなかった。五月十九日、二十日に国会内に警官が導入され、安保条約改定案が自民党の単独審議、単独強行採決がなされた。これにたいして国民は起って、解散総選挙によって主権者の判断をまつべきだととなえ、あの強行採決をそのまま確定してしまっては、憲法の大原則たる議会主義を無視することになるから、解散して主権者の意志を聞けと二千万人に達する請願となったのであります。しかるに参議院で単独審議、自然成立となって、批准書の交換となったのであります。かくて日本の議会政治は、五月十九日、二十日をもって死滅したといっても過言ではありません。かかる単独審議、一党独裁はあらためられなければなりません。また既成事実を作っておいて、今回解散と来てもおそすぎると思います。わが社会党は、日本の独立と平和、民主主義に重大な関係のある案件であって国民のなかに大きな反対のあるものは、諸外国では常識になっておるように総選挙によって、国民の賛否を問うべきであると主張する、社会党は政権を取ったら、かならずこのとおりに実行することを誓います。議会政治は国会を土俵として、政府と反対党がしのぎをけずって討論し合う、そして発展をもとめるものであります。それには憲法のもと、国会法、衆議院規則、慣例が尊重されなければなりません。日本社会党はこの上に行動をいたします。
 最後に申し上げたいのは現在、日本の政治は金の政治であり、金権政治であります。この不正を正さねばなりません。現在わが国の政治は選挙でばく大なカネをかけ、当選すればそれを回収するために利権をあさり、時には指揮権の発動となり、カネをたくさん集めたものが総裁となり、総裁になったものが総理大臣になるという仕組みになっております。
 政治がこのように金で動かされる結果として、金次第という風潮が社会にみなぎり、希望も理想もなく、その日ぐらしの生活態度が横行しております。戦前にくらべて犯罪件数は十数倍にのぼり、とくに青少年問題は年ごろのこどもをもつ親のなやみのタネになっております。政府はこれにたいして道徳教育とか教育基本法の改正とかいっておりますが、それより必要なことは、政治の根本が曲がっている、それをなおしてゆかねばなりません。
 政府みずからが憲法を無視してどしどし再軍備をすすめ、最近では核弾頭もいっしょに使用できる兵器まで入れようとしておるのに、国民にたいしては法律を守れといって、税金だけはどしどし取り立ててゆく。これでは国民はいつまでもだまってはいられないと思います。
 政治のあり方を正しくする基本はまず政府みずから憲法を守って、きれいな清潔な政治を行なうことであります。そして青少年には希望のある生活を、働きたいものには職場を、お年寄りには安定した生活を国が保障するような政策を実行しなければなりません。日本社会党が政権を取ったら、こういう政策を実行することをお約束申します。以上で演説を終りますが、総選挙終了後、日本の当面する最大の問題は、第一は中国との国交回復の問題であり、第二には憲法を擁護することであります。これを実現するには池田内閣では無理であります。それは、社会党を中心として良識ある政治家を糾合した、護憲、民主、中立政権にしてはじめて実行しうると思います。
 諸君の積極的支持を切望します。
――おわり――

底本:「浅沼稲次郎 私の履歴書ほか」日本図書センター
   1998(平成10)年8月25日第1刷発行
底本の親本:「驀進 人間機関車ヌマさんの記録」日本社会党機関紙局
   1961(昭和36)年
入力:門田裕志
校正:仙酔ゑびす
2010年11月26日作成
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