「……やはり、「作品」で好いぢやないか、それが好いと思ふがな……」
永井君が左う云つたのを覚えてゐる。おそらく前々からの相談のつゞきであつたに相違ない。私は飛入りのやうな感じで、遠慮深くソーダ水を吸ひながら、好ささうな題だとおもつた。
そんなやうなことから私は、雑誌が出はぢめると多少の同人めいた自惚れをもつたりして、何か書いたり、時には会合にも出たが、更に更に流転状態が荒々しくなり、誠意を示すまでには至らなかつた。でも何処に住んでも雑誌を手にする度に、いつも特異な斬新なものを、何か身をもつて感ずるといふ風な愉快を覚えさせられた。もう、それが五年にもなるかと知り、自分をおもふと呆気にとられるのであるが、この雑誌の成長と、あのころ知合つた人達の上を思ふと、大した時日だつたと考へられるのだ。
この雑誌がいろいろな危期に相遇した当時のことも知つてゐるが、終始一貫たる質実なる清新味をもつて、凡てに打ち勝ち、着々とここまですすんで来てしまつた上は、もはや厳たるもので、これは偏へに、真摯至極なる小野松二氏の功蹟であり、且つは同氏の凜然たる風格の然らしめたものであると、畏敬してゐる次第である。
底本:「牧野信一全集第六巻」筑摩書房
2003(平成15)年5月10日初版第1刷
底本の親本:「作品 第六巻第五号(五月号)」作品社
1935(昭和10)年5月1日発行
初出:「作品 第六巻第五号(五月号)」作品社
1935(昭和10)年5月1日発行
※題名の〔〕は、底本編集時に与えられたものです。
入力:宮元淳一
校正:門田裕志
2011年9月30日作成
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