日毎夜毎吾が悲しみの多くなる如く思ひて今日も亦寢る
思へども思へども心まとまらず濱に出て來て身を横ふる
葉山ゆく馬車高々と過ぎゆきしアスフアルトの上に秋日やわらか
濱に出て砂にまろべば砂もまた吾をいたむかじつと默せり
棄てられし子犬の聲の細まるを聞きてゐたりきかなしき心
砂にねて海を聞きつゝ封切りぬ亂れし文字は友も惱むか
あまた蟹穴あけたるを一つ一つ埋めて行きぬ哀しきこゝろ
海鳴りを聞きてゐたりき夜もすがら母を想ひて寢られぬまゝに
淋しさに火を持ちて來し宿の女にありふれし言葉かけてみたりき
東京は寒しと言へば笑ひつゝ生れは岩手と語りし女
床敷けば机のやりばなきまでに狹き部屋ゐて心安けし
主義のため[#「主義のため」は底本では「主義とため」]敵となるとも死ぬるまで友であらんと語りし友よ
やせたらうそれだけ言つてまじまじと俺れをみつめた友であつたが――
空高し雲のんびりと渡りゆくこの秋にして何を思はむ
行方だに語らずて友は去りゆきぬ戀に破れし者のかなしさ
日大の三階の窓スと開きて人の聲あり友を呼ぶらし
夢なれと願ふこゝろにうつゝなれと願ふこゝろの交るがかなし
まじめなる顏にかへりぬふともわれ笑ひし後のかなしくあれば
底本:「日光浴室 櫻間中庸遺稿集」ボン書店
1936(昭和11)年7月28日発行
入力:Y.S.
校正:富田倫生
2011年9月27日作成
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