私の行手に横たわっていた白い墓が
今度は起き上ってじっと私の顔を見ている
私にはそこにゆくより路がない。
どうせ卑俗な 夢がたみだ
私の霊魂の全部に
ぐにゃぐにゃした笑顔がくっつき
私の両側はどうせ苦悶の姿ばかりだ
だが此のデリカなかかり合いにはどうせ奴らのぴくついた神経では
何としても 防げない精神力の強さがある
どうしようもない苦しみ
いつなくなろうとも果しれぬ憂鬱
どこに行っても不具者らのうめき声の堆積を見せつけられ
私はやがての後のつまらないあがきを求めていたのだ
空に向って生きようと折角両手をひろげた木も十月にはその手をもぎとられる
あの姿のない風にさえも
風は烈しい痛みを持っているのに相違ない
熱情のおりおりの底からだまって灰色の眼を光らせている――
嵐の後のかなしい植物らの呪咀、怨嗟の声
地の底には根と根の沈潜したみにくい闘争があり、空には太陽と月のじれったい戯れがある
どうして此のわなの中からはい上ろう
どうして此の荒縄を断ち切ろう
どうして此の肉と心とのさかい解易やさしく区別出来よう。
いいや一切の 地の上の生物、無機物、有機物あらゆる組合わされたもののかみあいが
面白く切なげに展開するのは
それはそうしなければ生きられぬ奴らの
どうにもならないくさびがあるからだ
やがて邪魔になればほうられる
やがてうるさく思われれば捨てられる

底本:「日本プロレタリア文学集・39 プロレタリア詩集 (二)」新日本出版社
   1987(昭和62)年6月30日初版
初出:「詩精神」
   1935(昭和10)年4月号
入力:坂本真一
校正:富田倫生
2012年11月26日作成
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