その代り、あらゆる昆虫がみんな死ぬ。蜂もカマキリも蝶も蝉も蛾も蠅も、私の部屋へ来たが最後、翌日は屍体をさらしてしまうから、死屍ルイルイ、これだけは、すこし、きたない。けれども、その屍体にたかる虫も育つ心配がないのだから、一年もたつと、自然にみんな風化してゴミと帰し、天地自然の理にかなっている。
私の部屋の片隅には一昨年の夏のカヤがそのまゝ壁の一角にブラ下っているが、このカヤをつると埃が舞いあがり舞い落ちて汚いから、吊るわけに行かぬ。
机の四方に山とつまれたホゴや雑誌の下には、色々のものがある筈であるが、かき廻すと埃が立つから、さがされない。
掃除をすると色々の探し物がみつかって便利なのだが、整理に三日ぐらいはかゝり、それを人手に委せられない意味があるので、掃除もできないハメになっているのである。
一番こまるのは、人からの手紙で、そのうち返事をだそうと思って、身辺へ投げだしておくと、忽ち行方不明になって、返事がだせなくなってしまう。手紙を貰ってすぐ返事をかくことは却々できないものだから、どうしても行方不明になるわけで、だから又、この紙屑の下には、もうホゴとなった小切手や為替なども、かなり、まじっているのである。
底本:「坂口安吾全集 06」筑摩書房
1998(平成10)年7月20日初版第1刷発行
底本の親本:「マダム 第一巻第二号」
1948(昭和23)年3月1日発行
初出:「マダム 第一巻第二号」
1948(昭和23)年3月1日発行
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。
入力:tatsuki
校正:小林繁雄
2007年4月24日作成
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