(またこの間の水兵か)
それに気の注いた客は、数日前にもやはりそのあたりで、影法師のようなその水兵を見かけていた。その時二等車の方から列車ボーイが出て来た。
「君、この間も見たが、今二等車の方へ往った水兵は、なんだね」
列車ボーイは眼をくるくるとさした。
「帽子のない水兵でしたか」
「そうだよ」
「入って往ったのですか」
「往ったとも、気が注かなかったかね」
「それじゃ、また出たのか」
「出たとは」
「そんなことを云いますよ」
客はその後で、列車ボーイから、三人伴れの水兵が、田浦方面へ遊びに往っていて、帰りにその一人が帽子を無くしていたので、それがために、途中で轢死していると云うことを聞かされた。
底本:「伝奇ノ匣6 田中貢太郎日本怪談事典」学研M文庫、学習研究社
2003(平成15)年10月22日初版発行
底本の親本:「新怪談集 実話篇」改造社
1938(昭和13)年
入力:Hiroshi_O
校正:noriko saito
2010年10月20日作成
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