…………はっと思ふと、すべてが彼の趾の裏から墜落して行くのであった。女の子の一人は縦縞のじみな着物を着て、鼻に小皺を寄せたまま、もう一人の女の子は赤い襷を掛けて、煤けた腕を露出したまま、熊の子のやうに佐藤はもぢゃもぢゃに頬鬚を伸し、歯をタバコの脂だらけにして、その他四十人あまりの顔がみんなそれぞれ変ってゐるのに気も着かず、まだ体操を続けてゐた。そして、どしどし運動場は墜落して行く。豊は耐りかねて、負傷してゐないほうの手で、藤の花にぶらさがった。
底本:「普及版 原民喜全集第一巻」芳賀書店
1966(昭和41)年2月15日初版発行
入力:蒋龍
校正:伊藤時也
2013年1月24日作成
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