七ツか、八ツの頃、五所川原の賑やかな通りを歩いて、どぶに落ちました。かなり深くて、水が顎のあたりまでありました。三尺ちかくあつたのかも知れません。夜でした。上から男の人が手を差し出してくれたのでそれにつかまりました。ひき上げられて衆人環視の中で裸にされたので、實に困りました。ちやうど古着屋のまへでしたので、その店の古着を早速着せられました。女の子の浴衣でした。帶も、緑色の兵古帶でした。ひどく恥かしく思ひました。叔母が顏色を變へて走つて來ました。
私は叔母に可愛がられて育ちました。私は、男ツぷりが惡いので、何かと人にからかはれて、ひとりでひがんでゐましたが、叔母だけは、私を、いい男だと言つてくれました。他の人が、私の器量の惡口を言ふと、叔母は、本氣に怒りました。みんな遠い思ひ出になりました。
底本:「太宰治全集11」筑摩書房
1999(平成11)年3月25日初版第1刷発行
入力:小林繁雄
校正:阿部哲也
2011年10月12日作成
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