あかりつぎつぎ飛び行けば
赭ら顔黒装束のその若者
こゝろもそらに席に帰れり

まち覆ふ膠朧光や
夜の穹窿を見入りつゝ
若者なみだうちながしたり

大森をすぎてその若者ひそやかに
写真をいだし見まもりにけり

   げに一夜
   写真をながめ泪ながし
   駅々の灯を迎へ送りぬ

山山に白雲かゝり夜は明けて
若者やゝに面をあげ
田原の坂の地形を説けり

   赭ら顔黒装束のその隼人
   歯磨などをかけそむる

底本:「新修宮沢賢治全集 第六巻」筑摩書房
   1980(昭和55)年2月15日初版第1刷発行
入力:junk
校正:土屋隆
2011年5月14日作成
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