不器用な天使

          1

 カフエ・シヤノアルは客で一ぱいだ。硝子戸を押して中へ入つても僕は友人たちをすぐ見つけることが出來ない。僕はすこし立止つてゐる。ジヤズが僕の感覺の上に生まの肉を投げつける。その時、僕の眼に笑つてゐる女の顏がうつる。僕はそれを見にくさうに見つめる。するとその女は白い手をあげる。その手の下に、僕はやつと僕の友人たちを發見する。僕はその方に近よつて行く。そしてその女とすれちがふ時、彼女と僕の二つの視線はぶつかり合はずに交錯する。
 そこに一つのテイブルの周りを、三人の青年がオオケストラをうるささうに默りながら、取りまいてゐる。彼等は僕を見ても眼でちよつと合圖をするだけである。そのテイブルの上には煙りの中にウイスキイのグラスが冷く光つてゐる。僕はそこに坐りながら彼等の沈默に加はる。
 僕は毎晩、彼等と此處で落ち合つてゐた。

 僕は二十だつた。僕はいままで殆ど孤獨の中にばかり生きてゐた。が、僕の年齡はもはや僕に一人きりで生きてゐられるためのあらゆる平靜さを與へなかつた。そして今年の春から夏へ過ぎる季節位、僕に堪へがたく思はれたものはなかつた。
 その時、この友人たちが彼等と一緒にカフエ・シヤノアルに行くことに僕を誘つた。僕は彼等に氣に入りたいと思つた。そして僕は承諾した。その晩、僕は彼等の一人の槇が彼の「ものにしよう」として夢中になつてゐる一人の娘に會つた。
 その娘はオオケストラの間に高らかに笑つてゐた。彼女の美しさは僕に、よく熟していまにも木の枝から落ちさうな果實のそれを思はせた。それは落ちないうちに摘み取られなければならなかつた。
 その娘の危機が僕をひきつけた。
 槇はひどい空腹者の貪慾さをもつて彼女を欲しがつてゐた。彼のはげしい欲望は僕の中に僕の最初の欲望を眼ざめさせた。僕の不幸はそこに始まるのだ。……

 突然、一人が彼の椅子の上に反り身になつて僕の方をふり向く。そして何か口を動かしてゐる。が、音樂が僕にそれを聞きとらせない。僕は彼の方に顏を近よせる。
「槇は今夜、あのメツチエンに手紙を渡さうとしてゐるのだ」
 彼はすこし高い聲でそれを繰り返す。その聲で槇ともう一人の友人も僕等の方をふり向く。眞面目に微笑する。そしてまた、前のやうな沈默に歸つてしまふ。僕はひとり顏色を變へる。僕はそれを煙草の煙りで隱さうとする。しかし、今まで快く感じられてゐた沈默が急に僕には呼吸いき苦しくなり出す。ジヤズが僕の咽頭のどをしめる。僕はグラスをひつたくる。僕はそれを飮まうとする。が、そのグラスの底に見える僕の狂熱した兩眼が僕を怖れさせる。僕はもうそれ以上そこに居ることが出來ない。
 僕はヴエランダに逃れ出る。そこの薄くらがりは僕の狂熱したまなこを冷やす。そして僕は誰からも見られずに、向うの方に煽風機に吹かれてゐる娘をぢつと見てゐることが出來る。風のために顏をしかめてゐるのが彼女に思ひがけない神々しさを與へてゐる。ふと、彼女の顏の線が動搖する。彼女がこちらを向いて笑ひだす。一瞬間、僕はヴエランダから彼女をぢつと見てゐる僕を認めて彼女が笑つたのだと信じる。が、僕はすぐ自分の過失に氣づく。うす暗いヴエランダに立つてゐる僕の姿は彼女の方からは見える訣がない。彼女は誰かに來いと合圖をされたのだらうか。僕はそれが槇ではないかと疑ふ。彼女は思ひ切つたやうにこちらを向いて歩き出す。
 僕は僕の手を果實のやうに重く感じる。僕はそれをヴエランダの手すりの上に置く。手すりは僕の手を埃だらけにする。

          2

 その夜、疾走してゐる自轉車が倒れるやうに、僕の心は急に倒れた。僕は彼女から僕のあらゆる心の速度を得てゐたのだ。それをいま、僕は一度に失つてしまつた。僕にはもう自分の力だけでは再び起ち上ることが出來ないやうに思はれるのだ。
「電話ですよ」母がさう云つて僕の部屋に入つてくる。僕は返事をしない。母は僕に叱言を云ふ。僕はやつと母の顏を見上げる。そして「このままそつとして置いて下さい」僕は母にさういふ表情をする。母は氣づかはしげに僕を見て部屋から出て行く。
 夜になつても、僕はもうカフエ・シヤノアルに行かうとしない。僕はもう彼女のところに、友人たちのところに行かうとしない。僕は自分の部屋の中にぢつと動かないでゐるのだ。そして僕は何もしないためにあらゆる努力をする。僕は机の上に肱をついて、兩手で僕の頭を支へてゐる。僕の肱の下には、いつも同じ頁を開いてゐる一册の本がある。そしてその頁にはこんな怪物が描き出されてある。――彼は自分にも支へられないくらゐに重い頭蓋骨を持つてゐる。そしていつもそれを彼のまはりに轉がしてゐる。彼はときどきあごをあけては、舌で、自分の呼吸で濕つた草をぎ取る。そして一度、彼は自分の足を知らずに食べてしまふ。――そしてこの怪物くらゐ、僕になつかしく思はれるものはなかつたのだ。
 しかし人は苦痛の中にそのやうにしてより長く生きることは不可能な事だ。僕はそれを知つてゐた。それなのに、何故、僕は自分をその苦痛から拔け出させようとしないでゐたのか。僕は實は自分でもすこしも知らずに待つてゐたのだ。――彼女の愛してゐるのが槇ではなくて僕であることを、友人の一人が愕いて僕にそれを知らせにくることを、一つの奇蹟を、僕は待つてゐたのだ。
 ある夜の明方、僕は一つの夢を見た。僕は槇と二人で、上野公園の中らしい芝生の上にあふむけになつて眠つてゐる。ふと僕は眼をさます。槇はまだよく眠つてゐる。僕は、芝生の向うから、いつのまにか彼女がもう一人のウエイトレスと現はれ、何か小聲に話しながら、僕等に近づいてくるのを見る。彼女は相手の女に、彼女の愛してゐるのは實は僕であることを、そして槇が僕の手紙を渡してくれたのかと思つたら、それは槇自身の手紙であつたことを話してゐる。そして彼女等は、僕等に少しも氣づかずに、僕等の前を通り過ぎる。僕は異常な幸福を感じる。僕は槇をそつと見る。槇はいつの間にか眼をあけてゐる。
「よく眠つてゐたね」僕が云ふ。
「僕がかい?」槇は變な顏をする。「眠つてゐたのは君ぢやないか」
 僕はいつの間にか眼をつぶつてゐる。「そら、また眠つてしまふ」さういふ槇の聲を聞きながら僕は再びぐんぐんと眠つて行く。
 それから僕はベツドの上で本當に眼をさました。そしてその夢ははつきりと僕に、自分でも氣づかないでゐた奇蹟の期待を知らせた。その奇蹟の期待は、再び僕の中に苦痛を喚び起しながら、それによつて一そう強まる。そしてそれは夜の孤獨の堪へがたさと協力して、無理に僕をカフエ・シヤノアルに引きずつて行つた。
 カフエ・シヤノアル。そこでは何も變つてゐない。同じやうな音樂、同じやうな會話、同じやうに汚れてゐるテイブル。僕はさういふものの間に、以前と少しも變らない彼女とそれから槇を見出すことを、そして僕一人だけがひどく變つてゐるのであることを欲する。が、すぐ僕は暗い豫感を感じる。僕には彼女が僕の眼を避けてゐるとしか見えない。
「なんだ、ばかに悄げてゐるぢやないか」
「どうかしたのかい」
 僕は平生のポオズを取らうと努力しながら、友人に答へる。
「ちよつと病氣をしてゐたんだ」
 槇が僕を見つめる。そして僕に云ふ。
「さう云へば、この間の晩、ひどく苦しさうだつたな」
「うん」
 僕は槇を疑ひ深さうに見つめる。僕は僕が苦しんでゐるのを人に見られることを恐れる。それなのに、自分の傷を自分の指で觸つて見ずにゐられない負傷者の本能から、僕は僕を苦しませてゐるものをはつきりと知りたい欲望を持つた。僕は無駄に彼女の顏をさがしてから、再び槇を見つめながら云ふ。
「どうなつたの、あのメツチエンは?」
「え?」
 槇はわざと分らないやうな顏をして見せる。それから急に顏をしかめるやうに微笑をする。するとそれが僕の顏にも傳染する。僕は自分が自分の意志を見失ひ出すのを感じる。
 突然、友人の聲がその沈默を破る。
「槇はやつとあいつを捕まへたところだ」
 それから別の聲がする。
「今朝が最初の媾曳ランデブウだつたのさ」
 今まで經驗したことのない氣持が僕を引つたくる。僕はそれが苦痛であるかどうか分らない。友人はしきりに口を動かしてゐる。しかし僕はもうそれからいかなる言葉も聞きとらない。僕はふと、僕の顏の上にまださつき傳染した微笑の漂つてゐるのを感じる。それは僕自身にも實に思ひがけないことだ。しかし僕はさういふ自分自身の表面からも僕が非常に遠ざかつてしまつてゐるのを感じる。それによつて潛水夫のやうに、僕は僕の沈んでゐる苦痛の深さを測定する。そして海の表面にぶつかりあふ浪の音が海底にやつと屆くやうに、音樂や皿の音が僕のところにやつと屆いてくる。
 僕は出來るだけアルコオルの力によつて浮き上らうと努力する。
「彼は孔のやうにむ」
「彼は苦しさうだ」
「彼の脣はふるへてゐる」
「何が彼を苦しめてゐるのだ」
 僕は少しづつ浮き上つて行きながら、漸くさういふ友人たちの氣づかはしさうな視線に對して可感になる。しかし彼等はすつかり僕を見拔いてゐない。僕は彼等に僕が病氣であることを信じさせるのに成功する。僕はもう彼女の顏をさがすだけの氣力すらない。
 カフエ・シヤノアルを出て友人等に別れると、僕は一人でタクシイに乘る。僕は力なく搖すぶられながら、運轉手の大きな肩を見つめる。あたりが急に暗くなる。近道をするために自動車は上野公園の森の中を拔けて行くのである。「おい」僕は思はず運轉手の肩に手をかけようとする。それが急に槇の大きな肩を思ひ起させたからである。しかし僕の重い手は僕の身體を殆んど離れようとしない。僕の心臟は悲しみでしめつけられる。ヘツドライトが芝生の一部分だけを照らし出す。その芝生によつて、今朝の夢が僕の中に急によみがへる。夢の中の彼女の顏が、僕の顏に觸れるくらゐ近づいてくる。しかし、その顏は僕を不器用に慰める。

          3

 眞夏の日々。
 太陽の強烈な光は、金魚鉢の中の金魚をよく見せないやうに、僕の心の中の悲しみを僕にはつきりと見せない。そして暑さが僕のあらゆる感覺を麻痺させる。僕には僕のまはりを取りまいてゐるものが何であるか殆どわからない。僕はただフライパンの臭ひと洗濯物の反射と窓の下を通る自動車の爆音の中にぼんやりしてゐる。
 が夜がくると、僕には僕の悲しみがはつきりと見え出す。一つづつ樣々な思ひ出がよみがへつてくる。公園の番になる。するとそれだけが急に大きくなつて行つて、他のすべての思ひ出は、その後ろに隱されてしまふ。僕はこの思ひ出を非常に恐れてゐる。そしてそれを僕から離さうとして僕は氣狂のやうにもがき出す。
 僕は何處でもかまはずに歩く。僕はただ自分の中に居たくないために歩く。彼女や友人たちからばかりでなく、僕自身からも遠くに離れてゐる事が僕には必要なのである。僕はあらゆる思ひ出を恐れ、又、僕に新しい思ひ出を持つてくるやうな一つの行爲をすることを恐れる。そのために僕は僕自身の影で歩道を汚すより他のことは何もしようとしない。
 或夜、黄色い帶をしめた若い女が、僕を追ひこしながら、僕に微笑をして行く。僕はその女の後を、一種の快感をもつて追つて行く。が、その女が或る店の中に入つてしまふと、僕は彼女を少しも待たうとしないでそこを歩き去る。僕はすぐその女を忘れる。それから二三日して、僕は再び群集の中に黄色い帶をしめた若い女が歩いてゐるのを認める。僕は足を早める。が、その女に追ひついて見ても、僕にはもうそれが二三日前の女かどうか分らなくなつてゐる。そしてそれほどぼんやりしてゐる自分自身を見出すことは、僕の悲しみに氣に入るのである。
 時々、歩道に面した小さな酒場が僕を引つぱりこむ。煙りでうす暗くなつてゐるその中で、僕は僕のテイブルを煙草の灰や酒の汚點しみできたなくする。そしてしまひにはその汚れたテイブルが、僕に、その晩中僕の影のよごしてゐた長い長い歩道を思ひ出させる。僕は非常な疲れを感じる。僕はそこを出ると、すぐタクシイに飛びこみ、それからベツドに飛びこむ。そして僕は石のやうに眠りの中に落ちて行くのである。

 或夜、僕は群集の中を歩きながら、向うから來る一人の青年をぼんやりと見つめてゐた。するとその青年は僕の前に立止つた。それは僕の友達の一人だつた。僕は突然笑ひ出しながら彼の手を握つた。
「なんだ、君か」
「おれを忘れたのかい」
「ああ、すつかり忘れちやつた」
 僕はわざと快活さうに言つた。しかし僕は、彼を見てゐながら、彼と氣づかなかつたことが、それほど僕のぼんやりしてゐることが、彼を悲しませてゐるらしいのを見逃さなかつた。
「どうして俺たちのところに來なかつたのだ」
「僕は誰にも會はなかつたのだ。誰にも會ひたくなかつたのだ」
「ふん……ぢや、槇のことも知らないな」
「知らないよ」
 すると彼は一言も云はずに默つて歩き出した。僕は彼がこれから槇について話さうとしてゐることが、再び僕の心を引つくり返すにちがひないのを豫感した。しかし、僕は犬のやうに彼に從いて行つた。

「あの女は天使だつたのさ」
 彼はその天使と云ふ言葉を輕蔑するやうに發音した。
「槇はあの女を連れてよく野球やシネマに出かけて行つたのだ。最初、あの女は槇の言葉で云ふと、とても蠱惑的シヤルマンだつたのださうだ。ところが、槇が一度婉曲に、女に一しよに寢る事を申込んだのだ。すると女が急に彼に對する態度を一變してしまつた。そしてそれからの女の冷淡さと言つたら、槇を死ぬやうに苦しませたほどだつた。一體あの女は、男の心を少しも知らないのか、それとも男を苦しませることが好きなのか、どつちだかわからない。あいつは生意氣なのか、馬鹿なのか、どつちかだ。――おい、ウイスキイ! 君は?」
「僕はいらないよ」僕は頭をふつた。僕はそれを他人の頭のやうに感じた。
「それから」僕の友人は續けた。「槇は突然何處かに行つてしまつたのだ。どうしたのかと思つてゐたら、昨日、ひよつくり歸つてきやがつた。一週間ばかり神戸へ行つてゐて、毎日バアを歩き※(「廴+囘」、第4水準2-12-11)つては、あいつの膨脹した欲望をへとへとにさせてゐたんださうだ。もうすつかり腹の蟲が納まつたやうな顏をしてゐる。あいつは思つたより實際派リアリストだな」
 僕は僕の頭の中がだんだん蜜蜂のうなりで一ぱいになるのを感じながら、友人の話を默つて聞いてゐた。僕はその間、時々、友人の顏を見上げた。それは僕に、さつき群集の中でその顏を見つめながら、彼だと氣づかなかつたほどぼんやりしてゐた僕自身を思ひ出させ、それから僕をそれほどにしてゐた僕の苦痛の全部を思ひ出させた。

          4

 その數日前から、僕は少しも彼女の顏を思ひ出さないやうに、自分を慣らしてゐた。それが僕に彼女はもう無いものと信じさせてゐた。が、それは自分の部屋の亂雜に慣れてそれを少しも氣にしなくなり、多くの本の下積みになつてゐるパイプをもう無いものと信じてゐるやうなものであつた。その本を取りのける機會は、その下にパイプを發見させる。
 そのやうにして、再び僕の前に現れた彼女は、その出現と同時に、彼女に對する僕の以前と少しも異らない愛を僕の中によみがへらせた。僕の理性はしかし、僕と彼女との間に、一度傷つけられた僕の自負心を、あらゆる苦痛の思ひ出を、堆積した。それにもかかはらず、それらのものを通して、一つの切ない感情が、彼女の本當に愛してゐるのはやはり僕だつたのではないかといふ疑ひが、僕の中に浸入して來るのである。それは愛の確實な徴候だ。そしてそれを認めることによつて、僕はどうしても、自分の病氣から離れられない病人の絶望した氣持を經驗した。
 時間は苦痛を腐蝕させる。しかしそれを切斷しない。僕は寧ろ手術されることを欲した。その僕の性急さが、僕一人でカフエ・シヤノアルに彼女に會ひに行くといふ大膽な考へを僕に與へたのである。

 僕は始めて入つた客のやうにカフエの中を見まはす。僕を見て珍らしさうに笑ひかける見知つたウエイトレスの顏のいくつかが、僕の探してゐるものから僕の眼を遮る。僕の眼はためらひながら漸つとそれらの間に彼女を見出す。彼女は入口に近いオオケストラ・ボツクスによりかかつてゐる。その不自然な姿勢は僕に、僕の入つて來たのを知りながら彼女はまだそれに氣づかない風をしてゐるのだと信じさせる。僕は手術される者が不安さうに外科醫の一つ一つの動作を見つめるやうに、彼女の方ばかりを見てゐる。
 突然オオケストラが起る。彼女はそつとボツクスを離れる。そして僕を見ずに僕の方に何氣なささうに歩いてくる。そして僕から五六歩のところで、すこし顏を上げる。彼女の眼が僕の眼にぶつかる。すると彼女は急に微笑を浮べながら、そのまま歩きにくさうに、僕に近よつてくる。そして僕の前に默つて立止まる。僕も默つてゐる。默つてゐることしか出來ない。
 手術の間の息苦しい沈默。
 僕は彼女の手を見つめてゐるばかりだ。あまり強く見つめてゐるので、眼が疲れて來たせゐか、その手が急にふるへてゐるやうに見える。すると眩暈めまひが僕の額を暗くし、混亂させ、それから漸く消えて行く。
「あら、煙草の灰が落ちましたわ」
 手術の終つたことを知らせる彼女の微妙な注意。

 僕の手術の經過は全く奇蹟的だ。彼女の顏が急に生き生きと、信じられないほど大きい感じで僕の前に現れ、もはやそこを立去らない。それは、クロオズアツプされた一つの顏がスクリインからあらゆるものを消してしまふやうに、槇の存在、僕の思ひ出の全部、僕の未來の全部を、僕の前から消してしまふ。これは眞の經過であるか、それとも一時的な經過に過ぎないのか。しかし、そんなことは僕にはどうでもよい。僕の前にあるのは、唯、彼女の大きく美しい顏ばかりだ。そしてその他には、その顏が僕の中に生じさせる、もはやそれ無しには僕の生きられないやうな、一種の痛々しい快感があるだけである。
 僕は再び毎晩のやうにカフエ・シヤノアルに行き出してゐる自分自身を發見する。僕の友人は今はもう誰もここへは來ない。それは反つて僕に、友人たちの間にゐた時には僕に全く缺けてゐた大膽さを起させ、そしてそれが僕の行動を支配した。

 そして彼女は――
 或夜、僕が註文した酒を待つてゐた間、丁度彼女が隣りの客の去つたあとのテイブルを片づけてゐたことがあつた。その時、僕はぢつと彼女を見ながら、彼女が非常にゆるやかな手つきで、殆ど水の中の動作のやうに、皿やナイフを動かしてゐるのを發見した。その動作のゆるやかさは僕に見つめられ、僕に愛されてゐることの敏感な意識からおのづから生れてくるやうに思はれた。僕はそのゆるやかさを何か超自然的なものに感じ、僕が彼女から愛されてゐることを信じずにはゐられなかつた。

 別の夜、一人のウエイトレスが僕に言ふ。
「あなた方のなさること、私達にはわからないわ」
 その女が「あなた方」と言ふのは明らかに僕や槇たちのことを意味してゐるらしかつた。しかし僕は故意にそれを僕と彼女とのことだと取つた。僕はその女が金齒を光らせて笑つたのが厭だつた。僕はその女を輕蔑して、何も返事をしないでゐた。

 さういふ風にして、微妙な注意の下に、僕が彼女から愛の確證を得つつある間、僕はときどきは發作的な欲望にも襲はれるのであつた。彼女のしなやかな手足は僕に、それらと僕の手足とをネクタイのやうに固く結びつける快感を豫想させた。そして僕は彼女の齒を、それと僕の齒とがぶつかつて立てる微かな音を感ぜずには、見ることが出來なくなつた。
 槇が彼女と一しよに公園やシネマに出かけてゐたことが、思ひ出すごとに僕に苦痛を與へずにはおかないその思ひ出そのものが、同時に僕にその空想の可能性を信じさせるのであつた。僕はそれをどういふ風に彼女に要求したらいいか? 僕は槇の方法を思ひ出した。愛の手紙による方法。しかしその不幸な前例は僕を迷信的にした。僕は他の方法を探した。そして僕はその中の一つを選んだ。機會を待つてゐる方法。

 最もよい機會。僕のグラスがからつぽになる。僕はウエイトレスを呼ぶ。彼女が僕のところに來ようとする。それと同時に、他のウエイトレスもまた僕のところに來ようとする。二人はすぐそれに氣づいて、微笑しながら、ためらひあふ。その時、彼女が思ひ切つたやうに僕の方に歩き出す。さういふ彼女が僕に思ひがけない勇氣を與へる。
「クラレツト!」僕は彼女に言ふ。「それからね……」
 彼女は僕のテイブルから少し足を離しかけて、そのまま彼女の顏を僕に近づける。
「明日の朝ね、公園に來てくれない。一寸君に話したいことがあるんだ」
「さうですの……」
 彼女はすこし顏を赤らめながら、それを僕から遠のかせる。そして足をすこし踏み出してゐた以前の姿勢に返ると、そのまま顏を下にむけて行つてしまふ。僕は、よく馴れた小鳥をそれが又すぐ戻つてくるのを信じながら自分の手から飛び立たせる人のやうな氣輕さをもつて待つてゐる。果して、彼女は再びクラレツトを持つて來る。僕は彼女に眼で合圖をする。
「九時頃でいいの」
「ああ」
 僕と彼女はすこし狡さうに微笑しあふ。それから彼女は僕のテイブルを離れて行く。

 僕はカフエ・シヤノアルを出ると、それから明日の朝までの間をどうしてゐたらいいのか全く分らなかつた。僕にはその間が非常に空虚なやうに思はれた。僕は少しも睡眠を欲しがらずにベツドに入つた。ふと槇の顏が浮んできた。が、すぐ彼女の顏がその上に浮んで、狡さうに笑ひながら、それを隱してしまつた。それから僕はほんの少しの間眠つた。――そして僕がベツドから起き上つたのは、まだ早朝だつた。僕は家中を歩きまはり、誰にでもかまはず大聲で話しかけ、そして殆ど朝飯に手をつけようとしなかつた。僕の母は氣狂のやうに僕を扱つた。

          5

 漸く彼女が來る。
 僕はステツキを落しながらベンチから立上る。僕の心臟は強く鼓動する。僕には彼女の顏が正確に見えない。
 僕は再び彼女と共にベンチに腰を下す。僕は彼女の傍にゐることにいくらか慣れる。僕は彼女の顏をはじめて太陽の光によつて見るのであることに氣づく。それは電氣の光でいつも見てばかりゐた顏と少し異ふやうに見える。太陽は彼女の頬に新鮮ななまな肉を與へてゐる。
 僕はそれを感動して見つめる。彼女は僕にそんなに見つめられるのを恐れてゐるやうに見える。しかし彼女は注意深くしてゐる。彼女は殆ど身動きをしない。そしてときどき輕い咳をする。僕はたえず何か喋舌つてゐる。僕は沈默を欲しながら、それを恐れてゐる。僕の欲してゐるのは、彼女の手を握りながら、彼女の身體に僕の身體をくつつけてゐることのみが僕等に許すであらう沈默だからだ。
 僕は僕自身のことを話す。それから友達のことを話す。そしてときどき彼女のことを尋ねる。しかし僕は彼女の返事を待つてゐない。僕はそれを恐れるかのやうに、又、僕自身のことを話しはじめる。そして僕の話はふと友達のことに觸れる。突然、彼女が僕をさへぎる。
「槇さんたちは私のことを怒つていらつしやるの?」
 彼女の言葉がいきなり僕から僕の局部を麻痺させてゐた藥を取り去る。
 僕は前に經驗したことのある痛みが僕の中に再び起るのを感じる。僕はやつと、あれから槇には自分も會はないと答へる。そして僕は呼吸いきの止まるやうな氣がする。僕はもう一言も物が云へない。その僕の烈しい變化にもかかはらず、彼女は前と同じやうに默つてゐる。さういふ彼女が僕にはひどく冷淡なやうに思はれる。そのうちに彼女は、だんだん不自然になつてくる沈默を僕がどうしようともしないのを見て、それを彼女の力で破らうと努力し出す。しかしそのためには、僕が默り込んでしまつてから妙に目立つて來た彼女の輕い咳を、不器用に利用する事しか出來ない。
「こんなに咳ばかりしてゐて。私、胸が惡いのかしら」
 僕は彼女を急に感傷的センチメンタルに思ひ出す。僕には彼女の心臟が硬いのか、脆いのか、分らなくなる。僕はただ、ひどい苦痛の中で、彼女の結核菌が少しづつ僕の肺を犯して行く空想を、一種の變な快感をもつて、しはじめる。
 彼女は彼女の努力を續けてゐる。
昨夜ゆうべ、店をしまつてから、私、犬を連れて、この邊まで散歩に來たのよ。二時頃だつたわ。ずゐぶん眞暗だつたわ。さうしたら誰だか私の後をつけてくるの。でもね、私の犬を見たら、何處かへ行つてしまつたわ。それはとても大きな犬なんですもの」
 僕はすつかり彼女のするままになつてゐる。彼女はどうにかかうにか僕の傷口に藥をつけ直し、それをすつかり繃帶で結はへてしまふ。そして僕は、彼女と共にゐる快さが、彼女と共にゐる苦痛と、次第に平衡し出すのを感じる。
 一時間後、僕等はベンチから立上る。僕は彼女の着物の腰のまはりがひどく皺になつてゐるのを見つける。そのベンチのために出來た皺は僕の幸福を決定的にする。
 僕等は別れる時、明日の午後、活動寫眞を見に行く事を約束する。

 翌日、僕は自動車の中から、公園の中を歩いてゐる彼女を認める。僕の小さな叫びは自動車を急激に止めさせる。僕は前に倒れさうになりながら、彼女に合圖をする。それから自動車は彼女を乘せて、半※(「廴+囘」、第4水準2-12-11)轉をしながら走り出し、一分後には、午後なので殆ど客の入つてゐない、そしてウエイトレスの姿だけのちらと見えるシヤノアルの前を通り過ぎる。この小さな冒險は臆病な僕等に氣に入る。
 シネマ・パレス。エミル・ヤニングスの「ヴアリエテ」。僕はその中に入りながら、人工的な暗闇の中に彼女を一度見失ふ。それから僕は僕のすぐ傍に彼女らしいものを見出す。しかし僕はそれが彼女であることをはつきり確めることが出來ない。そのために、彼女の手を探し求めながら僕の手はためらふ。そして、僕の眼はといへば實物より十倍ほどに擴大された人間の手足が取りとめもなくスクリインの上に動いてゐるのを認めるばかりだ。
 彼女は地下室のソオダ・フアウンテンでソオダ水を飮みながら、僕にエミル・ヤニングスを讚美する。何といふすばらしい肩。さう言つて、彼女はヤニングスが殺人の場面を彼の肩のみで演じたのを僕に思ひ出させようとする。その時僕の眼に浮んだのは、しかしヤニングスの肩ではなく、それに何處か似てゐる槇の肩である。僕はふと、六月の或日、槇と一しよに町を散歩してゐたときの事を思ひ出す。僕は彼が新聞を買つてゐるのを待ちながら、一人の女が僕等の前を通り過ぎるのを見てゐた。その女は僕を見ずに、槇の大きな肩をぢつと見上げながら、通り過ぎて行つた。……その思ひ出の中でいつかその見知らない女と彼女とが入れ代つてしまふ。僕はその思ひ出の中で彼女が槇の肩をぢつと見つめてゐるのを見る。そして僕は、彼女がいま無意識のうちにヤニングスの肩と槇の肩をごつちやにしてゐるのだと信じる。しかし僕は不公平でない。僕は槇の肩を實にすばらしく感じる。そしてそのどつしりした肩を自分の肩に押しつけられるのを、彼女が欲するやうに、僕も欲せずにはゐられなくなる。
 僕はもはや僕が彼女の眼を通してしか世界を見ようとしないのに氣づく。我々の心がネクタイのやうに固く結び合はされるとき我々に現はれて來る一つの徴候。それは氣を失はせるやうな苦痛をいつも伴つてゐる。
 僕は、もう僕の中にもつれ合つてゐる二つの心は、どちらが僕のであるか、どちらが彼女のであるか、見分けることが出來ない。

          6

 僕等が別れようとした時、彼女は
「いま何時?」と僕に訊いた。僕は腕時計をしてゐる手を出した。彼女は眼を細めながらそれをのぞきこんだ。僕はその表情を美しいと思つた。
 僕は、一人になつてから暫くすると、急にその腕時計を思ひ浮べた。僕は歩きながら、僕の父から貰つた金がもうすつかり無くなつてしまつてゐることを考へてゐた。僕は自分で何とかして小遣を少しこしらへなければならなかつた。僕は先づ、かういふ場合に何度も賣拂つた僕の多くの本のことを思ひ浮べた。しかし本はもう殆ど僕のところには殘つてゐなかつた。僕が突然僕の腕時計を思ひ浮べたのは、この時であつた。
 しかし僕はかういふものを金に替へるにはどうしたらいいか知らなかつた。僕はさういふ事に慣れてゐる友人の一人を思ひ出した。僕はそれを彼に頼むために思ひ切つて彼のアパアトメントに行く事にした。
 僕は、顏を石鹸の泡だらけにして髭を剃つてゐるその友人を、彼の狹苦しい部屋の中に見出した。彼の傍には、僕の知つてゐるもう一人の友人が椅子によりかかつて、パイプから大きな煙りを吐き出してゐた。それからもう一人、壁の方を向いて、ベツドの上に大きな袋のやうになつて寢ころがつてゐるものがあつた。僕にはそれが誰だか分らなかつた。
「誰だい」
「槇だよ」
 僕等の聲を聞いて彼は身體をこちらに向き變へた。
「おお、君か」彼は薄眼をあけながら僕を見た。
 僕は神經質な、怒つたやうな眼つきで槇を見つめかへした。僕は彼と隨分長く會はなかつたことを思つた。しかし、僕と彼女との昨日からの行動がもう彼等に知れ渡つてゐて、それが皮肉に僕の前に持ち出されはしないかといふ不安が、さういふ一切の感情を僕から奪ひ去つた。しかし三人ともメランコリツクに默つてはゐたが、その沈默には、僕に對するさういふ非難めいたものは少しも感じられなかつた。僕はそれをすぐ見拔いた。すると僕は大膽になつて、以前のままの親密な氣持を彼等に再び感じながら、槇の寢ころがつてゐるベツドのふちに腰を下した。
 しかし僕には以前と同じやうに槇を見ることが出來なかつた。僕の槇を見る視線には、どうしても彼女の視線がまじつて來るのだつた。僕は彼の顏にうつとり見入りながら、それを強く妬まずには居られないのである。僕は、さういふ僕の中の動搖を彼等から隱すために、新しい假面の必要を感じた。僕は煙草に火をつけ、僕の顔の上に微笑をきざみつけながら、思ひ切つて言つた。
「この頃どうしてゐるの? もうシヤノアルには行かないの?」
「うん、行かない」槇はすこし重苦しく答へた。それから友人の方に急に顏を向けて、「あんなところよりもつと面白いところがあるんだな」
「ジジ・バアか」友人は剃刀を動かしながら、それに應じた。
 僕のはじめて聞いたバアの名前。僕の想像は、そこを非常に猥褻な場所のやうに描き出す。僕はさういふ「惡所」を、彼の中に鬱積してゐる欲望を槇が吐き出すためには一番ふさはしい場所のやうに思つた。そして僕は、どこまでも悲しさうにしてゐる自分自身に比べて、彼のさういふ粗暴な生き方を、ずつと強く見出した。そして僕は何か彼に甘えたいやうな氣持になつた。
「今夜もそこへ行くの?」
「行きたいんだが、金がないんだ」
「お前ないか」剃刀が僕をふり向く。
「僕もないよ」
 僕はその時、僕の腕時計を思ひ浮べた。僕は彼等に愛らしく見える事を欲した。
「これを金にしないか」
 僕はその腕時計を外して、それを槇に渡した。
「これあ、いい時計だな」
 さう言ひながら、僕の腕時計を手にとつて見てゐる槇を、僕は少女のやうな眼つきで、ぢつと見つめてゐた。

 十時頃、ジジ・バアの中へ僕等は入つて行つた。入つて行きながら、僕は椅子につまづいて、それを一人の痩せた男の足の上に倒した。僕は笑つた。その男は立上つて、僕の腕を掴まへようとした。槇が横から男の胸を突いた。男はよろめいて元の椅子に尻をついた。そして再び立上らうとするのを、隣りの男に止められた。男は僕等を罵つた。僕等は笑ひながら一つの汚ないテイブルのまはりに坐つた。するとそこへ薄い半透明な着物をきた一人の女が近づいて來た。そして僕と槇との間に無理に割り込んで坐つた。
「飮むかい」槇は自分のウイスキイのグラスを女の前に置いた。
 女はそのグラスを手に持たうとしないで、それを透かすやうに見てゐた。友人の一人が一方の眼をつぶり、他方の眼を大きく開けながら、皮肉さうに彼等を僕に示した。僕は眼たたきをしてそれに答へた。
 その女はどこかシヤノアルの女に似てゐた。その類似が僕を非常に動かした。しかし、それは僕に複製の寫眞版を思ひ起させた。この女の細部の感じは後者と比べられないくらゐ粗雜だつた。
 女はやつとウイスキイのグラスを取上げて、一口それを飮むと、再び槇の前に置きかへした。槇はその殘りを一息に飮み干した。女はだんだん露骨に槇に身體をくつつけて行きながら、彼を上眼でにらんだり、脣をとがらしたり、あごを突き出したりした。さういふ動作はその女に思ひがけない魅力を與へた。それが僕の前で、シヤノアルの女の内氣な、そのため冷たいやうにさへ見える動作と著しい對照をなした。僕はこの二人が何處か似てゐるやうで實は何處も似てゐないことを、つまり二人は全てを除いて似てゐるのであることを知つた。そして僕はそこに槇の現在の苦痛を見出すやうな氣がした。
 その槇の苦痛が僕の中に少しづつ浸透してきた。そしてそこで、僕と彼と彼女のそれぞれの苦痛が一しよに混り合つた。僕はこの三つのものが僕自身の中で爆發性のある混合物を作り出しはしないかと恐れた。
 偶然、女の手と僕の手が觸れ合つた。
「まあ冷たい手をしてゐることね」
 女は僕の手を握りしめた。僕はそれにプロフエシヨナルな冷たさしか感じなかつた。しかし僕の手は彼女の手によつて次第に汗ばんで行つた。
 槇が僕のグラスにウイスキイを注いだ。それが僕によい機會を與へた。僕は女から無理に僕の手を離しながら、そのグラスを受取つた。しかし僕はもうこれ以上に醉ふことを恐れてゐる。僕は醉つて槇の前に急に泣き出すかも知れない自分自身を恐れてゐる。そして僕はわざと僕のグラスをテイブルの上に倒してしまつた。

 一時過ぎに僕等はジジ・バアを出た。僕等の乘つたタクシは僕等四人には狹かつた。僕は無理に槇の膝の上に乘せられた。彼の腿は大きくてがつしりとしてゐた。僕は少女のやうに耳を赤らめた。槇が僕の背中で言つた。
「氣に入つたかい」
「ちえつ、あんなとこが……」
 僕は彼の胸を肱で突いた。その時、僕は頭の中にジジ・バアの女の顏をはつきりと浮べた。すると一しよにシヤノアルの女の顏も浮んできた。そしてその二つの顏が、僕の頭の中で、重なり合ひ、こんがらかり、そして煙草の煙りのやうに擴がりながら消えて行つた。僕は僕が非常に疲れてゐるのを感じた。僕は何の氣なしに指で鼻糞をほじくり出した。僕はその指がまだ白粉でよごれてゐるのに氣づいた。

底本:「堀辰雄全集第一卷」筑摩書房
   1977(昭和52)年5月28日初版第1刷発行
底本の親本:「不器用な天使」新鋭文學叢書、改造社
   1930(昭和5)年7月3日発行
初出:「文藝春秋 第七巻第二号」
   1929(昭和4)年2月1日発行
入力:kompass
校正:門田裕志、小林繁雄
2008年3月1日作成
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