外の面には春日うららに
ありとあるひびきなせるを
灰いろのこの館には
百の人けはひだになし

台の上桜はなさき
行楽の士女さゞめかん
この館はひえびえとして
泉石をうち繞りたり

大居士は眼をいたみ
はや三月の人の見るなく
智応氏はのどをいたづき
巾巻きて廊に按ぜり

崖下にまた笛鳴りて
東へととゞろき行くは
北国の春の光を
百里経て汽車の着きけん

底本:「新修宮沢賢治全集 第六巻」筑摩書房
   1980(昭和55)年2月15日初版第1刷発行
入力:junk
校正:土屋隆
2011年5月14日作成
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