我の組すべき党派なし
我の戴くべき僧侶なし
我の維持すべき爵位なし
我に事ふべきの神あり
我に愛すべきの国あり
我に救ふべきの人あり
我に養ふべきの父母と妻子あり
四囲の山何ぞ青き
加茂の水何ぞ清き
空の星何ぞ高き
朝の風何ぞ爽き
一函の書に千古の智恵あり
以て英雄と共に語るを得べし
一茎の筆に奇異の力あり
以て志を千載に述るを得べし
我に友を容るゝの室あり
我に情を綴るゝのペンあり
炉辺団坐して時事を慨し
異域書を飛して孤独を慰む
翁は机に凭れ
媼は針にあり
婦は厨に急はしく
児は万歳を舞ふ
感謝して日光を迎へ
感謝して麁膳に対し
感謝して天職を執り
感謝して眠に就く
生を得る何ぞ楽しき
讃歌絶ゆる間なし
底本:「内村鑑三全集3 1894-1896」岩波書店
1982(昭和57)年12月20日発行
底本の親本:「国民之友」277号、署名(鑑三)
1896(明治29)年1月4日発行
入力:ゆうき
校正:ちはる
2000年11月2日公開
2005年9月27日修正
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