あらすじ
かつて、著者は大の食いしん坊で、自分を食通だと信じていました。友人の檀一雄や伊馬鵜平に「食通とは大食いである」と教え、二人を驚かせたものです。安くて美味しいものをたくさん食べるのが食通の極意だと信じる著者ですが、ある日、新橋のおでん屋で、海老の鬼がら焼きを箸で剥く若者を目の当たりにし、何ともみっともないと感じます。手で剥いても良いはずなのに、と。安くておいしいものを、たくさん食べられたら、これに越した事はないじゃないか。当り前の話だ。すなわち食通の奥義である。
いつか新橋のおでんやで、若い男が、海老の鬼がら焼きを、箸で器用に剥いて、おかみに褒められ、てれるどころかいよいよ澄まして、またもや一つ、つるりとむいたが、実にみっともなかった。非常に馬鹿に見えた。手で剥いたって、いいじゃないか。ロシヤでは、ライスカレーでも、手で食べるそうだ。
了
底本:「太宰治全集10」ちくま文庫、筑摩書房
1989(平成元)年6月27日第1刷発行
底本の親本:「筑摩全集類聚版太宰治全集」筑摩書房
1975(昭和50)年6月〜1976(昭和51)年6月
初出:「博浪沙」
1942(昭和17)年1月5日発行
入力:土屋隆
校正:noriko saito
2005年3月17日作成
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