「広場」は、「おもかげ」とともに作者のソヴェト同盟での生活のひとこまを主体としている。社会主義的な自覚をもってきて作者は一九三〇年にまる二年あまり暮したソヴェト同盟から、日本へ帰えるべきか、それともそのままモスクへとどまってしまうかという一つの決定にせまられた。作者はついに日本へ帰えってきた。そしてこの決定は正しかった。モスクで二つの大きな魅かれるものの間で、全心が身体とともにゆすぶられながら、次第に方向を見出してゆくその過程が描れている。
当時、検閲はきびしかった。まして長い禁止の後に、また発表されはじめた小説であったから、表現が制限されて、今読みかえすと感動で咽喉がつまって声も言葉ものびのびとはでていない。このわかりにくい程気をつかったいいまわしや、省略にもかかわらず、これが文芸に発表されたときは、ほんの小さい箇所が幾所か要心深くふせられた。
編輯者の好意で、伏字なしのゲラが保存されていたことはほんとに嬉しかった。それによってここにおさめられている「広場」は、不自由ながらもあのころ書かれたままの表現にもどされている。
〔一九五〇年二月〕