あらすじ
ケーベル先生は戦争の影響で日本を去ることができなくなり、出発を見合わせることに。しかし、すでに告別の辞を発表していたため、著者は混乱を深めていきます。戦争は、正直な二人の関係に嘘と誤解を生み出し、状況は複雑に絡み合っていくのです。しかし先生の告別の辞は十二日に立つと立たないとで変わるわけもなし、私のそれにつけ加えた蛇足な文句も、先生の去留によってその価値に狂いが出てくるはずもないのだから、われわれは書いたこと言ったことについて取り消しをだす必要は、もとより認めていないのである。ただ「自分の指導を受けた学生によろしく」とあるべきのを、「自分の指導を受けた先生によろしく」と校正が誤っているのだけはぜひ取り消しておきたい。こんなまちがいの起こるのもまた校正掛りを忙殺する今度の戦争の罪かもしれない。
了
底本:「硝子戸の中」角川文庫、角川書店
1954(昭和29)年6月10日初版発行
1994(平成6)年3月10日改版21版発行
入力:柴田卓治
校正:しず
1999年9月9日公開
2003年10月29日修正
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。