著者
書くとなく書きてたまりし文章を一册にする時し到りぬおほくこれたのまれて書きし文章にほのかに己が心動きをる
眞心のこもらぬにあらず金に代ふる見えぬにあらずわが文章に
幼く且つ拙しとおもふわが文を讀み選みつつ捨てられぬかも
自がこころ寂び古びなばこのごときをさなき文はまた書かざらむ
書きながら肱をちぢめしわがすがたわが文章になしといはなくに
ちひさきは小さきままに伸びて張れる木の葉のすがたわが文にあれよ
おのづから湧き出づる水の姿ならず木々の雫にかわが文章は
山にあらず海にあらずただ谷の石のあひをゆく水かわが文章は
書きおきしは書かざりしにまさる一册にまとめおくおかざるにまさるべからむ