あらすじ
ある日のこと、比呂志という少年は、父親といたずらっぽい問答にふけっています。二人は、まるで子供同士のように、動物になりきって追いかけっこをする妄想に熱中します。遊び心あふれる言葉のキャッチボールの中で、彼らの会話は次第に想像を絶するスケールへと広がっていき、壮大な神話の世界へと発展していくのです。
 僕はねずみになつて逃げるらあ。
 ぢや、お父さんは猫になるから好い。
 そうすりやこつちは熊になつちまふ。
 熊になりや虎になつて追つかけるぞ。
 何だ、虎なんぞ。ライオンになりや何でもないや。
 ぢやお父さんは龍になつてライオンを食つてしまふ。
 龍?(少し困つた顔をしてゐたが、突然)好いや、僕はスサノヲ尊になつて退治たいぢしちまふから。

底本:「筑摩全集類聚 芥川龍之介全集第四巻」筑摩書房
   1971(昭和46)年6月5日初版第1刷発行
   1979(昭和54)年4月10日初版第11刷発行
入力:土屋隆
校正:松永正敏
2007年6月26日作成
青空文庫作成ファイル:
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