二人の仕事師が某夜あるひ夜廻りに往っていると、すぐ眼の前でふうわりと青い火が燃えた。二人は驚いて手にしていた鳶口とびぐちで、それをたたこうとすると、火の玉は吃驚びっくりしたように向うの方へ往った。
 二人は鳶口をりながら追っかけた。そして、数町すうちょう往ったところで、その火の玉はあるろじへ折れて、その突きあたりの家の櫺子れんじ窓からふわふわと入ってしまった。と、家の中から苦しそうなうめきが聞えて来た。それと同時に年とった女の声がした。
「おとっさん、これお爺さん、何をそんなにうなされてるのだよ」
 すると老人の声で、
「ああこわかった、乃公おいらが街を歩いてると、何をかんちがいしやがったのか、二人の仕事師が、だしぬけに鳶口を持って追っかけて来たのだから、命からがら逃げて来たのだよ」
 と云った。

底本:「伝奇ノ匣6 田中貢太郎日本怪談事典」学研M文庫、学習研究社
   2003(平成15)年10月22日初版発行
底本の親本:「新怪談集 実話篇」改造社
   1938(昭和13)年
入力:Hiroshi_O
校正:noriko saito
2010年10月20日作成
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