あらすじ
顕微鏡の性能は、拡大できる倍率によって大きく異なり、その限界も存在します。しかし、現代の科学では見えないほど小さなものも、心眼を持つ人々にははっきりと見て取れるという、興味深い主張が展開されていきます。二千倍という顕微鏡は、数も少くまたこれを調節することができる人も幾人もないそうです。
いま、一番度の高いものは二千二百五十倍或は二千四百倍と云います。その見得るはずの大さは、
〇、〇〇〇一四粍 ですがこれは人によって見えたり見えなかったりするのです。
一方、私共の眼に感ずる光の波長は、
〇、〇〇〇七六粍 (赤色) 乃至
〇、〇〇〇四 粍 (菫色) ですから
これよりちいさなものの形が完全に私共に見えるはずは決してないのです。
また、普通の顕微鏡で見えないほどちいさなものでも、ある装置を加えれば、
約〇、〇〇〇〇〇五粍 くらいまでのものならばぼんやり光る点になって視野にあらわれその存在だけを示します。これを超絶顕微鏡と云います。
ところがあらゆるものの分割の終局たる分子の大きさは水素が、
〇、〇〇〇〇〇〇一六粍 砂糖の一種が
〇、〇〇〇〇〇〇五五粍 というように
計算されていますから私共は分子の形や構造は勿論その存在さえも見得ないのです。
しかるに、このような、或は更に小さなものをも明に見て、すこしも誤らない人はむかしから決して少くありません。この人たちは自分のこころを修めたのです。
了
底本:「ポラーノの広場」角川文庫、角川書店
1996(平成8)年6月25日初版発行
底本の親本:「新校本 宮澤賢治全集」筑摩書房
1995(平成7)年5月
入力:ゆうき
校正:noriko saito
2009年7月16日作成
2009年8月15日修正
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