あらすじ
純真とは何か、その意味を深く考えさせられる物語です。著者は、純真という言葉の空虚さを痛烈に批判し、人間の本質、特に子供たちの残酷さと無邪気さの対比を鮮やかに描き出しています。子供たちの無邪気な行動の裏に潜む残酷さ、そして大人たちの偽善的な優しさ。この物語は、私たちが普段何気なく使っている「純真」という言葉の重みに改めて気づかせてくれます。日本には「誠」という倫理はあっても、「純真」なんて概念は無かった。人が「純真」と銘打っているものの姿を見ると、たいてい演技だ。演技でなければ、阿呆である。家の娘は四歳であるが、ことしの八月に生れた赤子の頭をコツンと殴ったりしている。こんな「純真」のどこが尊いのか。感覚だけの人間は、悪鬼に似ている。どうしても倫理の訓練は必要である。
子供から冷い母だと言われているその母を見ると、たいていそれはいいお母さんだ。子供の頃に苦労して、それがその人のために悪い結果になったという例は聞かない。人間は、子供の時から、どうしたって悲しい思いをしなければならぬものだ。
了
底本:「もの思う葦」新潮文庫、新潮社
1980(昭和55)年9月25日発行
1998(平成10)年10月15日39刷
入力:蒋龍
校正:土屋隆
2006年11月15日作成
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