蒲留仙 五十前後のせてむさくるしいなりをしている詩人、胡麻塩ごましおの長いまばらな顎髯あごひげを生やしている。
李希梅 留仙の門下、二十五、六の貴公子然たる読書生。
葉生  浮浪人、二十六、七の背のひょろ長い髪の赤茶けたあおい眼の青年。
村の男
旅人  甲、乙。
山東省※(「さんずい+緇のつくり」、第3水準1-86-81)川の某山村の街路にある涼亭りゃんちん。それは街路の真中に屋根をこしらえ、左右の柱に添えて石台を置いて腰掛けとしたもので、その中を抜けて往来する者が勝手に休んでいけるようになっている。その涼亭の一方は山田で、稲や黍を作り、一方は人家になって十軒ばかりの泥土の小家が並んでいて、前には谷川の水の流れている小溝があり、後には屋根越しに緑葉の間から所どころ石の現われている丘が見えている。それは康熙年間のある夏の午後のことである。涼亭には蒲留仙ほりゅうせんが腰をかけて、長い煙管キセルをくわえながらうっとりとして何か考えている。その蒲留仙の右側の石台の上には、壷のような器に小柄杓を添えて、その下に二つ三つの碗を置き、それと並べて古い皮の袋と煙管を置いてあるが、その壷には茶が入れてあり、皮袋には淡巴菰タバコを詰めてある。そして左側には硯に筆を添え、それと並べて反古ほごのような紙の巻いたのを置いてある。また足許あしもとには焼火したらしい枯枝の燃えさしがあって、糸のような煙が立っている。蒲留仙はこうして旅人を待っていて、茶を勧め、淡巴菰をまして、牛鬼蛇神ぎゅうきじゃしんの珍らしい話をさせ、それを「聊斎志異りょうさいしい」の材料にしているところである。

そこへ村の男が一人上手かみてから来て涼亭の中へ入って来る。竹で編んだ笠を着けて、手の付いたざるうりのような物を入れ、それを左のひじにかけているが、蒲留仙を見つけると皮肉な眼付をする。
村の男 先生と張公の媽媽かかじゃ、辛抱がええわえ。今年でもう六年じゃ、毎日毎日、あの坂の上で、張公の帰りを待ってるが、なんぼ待ったところで、水に溺れて死んだ者が戻るもんか。気違いじゃからしかたがないが、考えてみりゃ、可哀いそうなもんじゃ。……時に先生、近頃は面白い話が聞けますか。
蒲留仙はやっと眼を開けたが、村の男の顔は見ずにめんどくさそうにいう。
蒲留仙 ……うむ、……うむ、話もね……。
そして淡巴菰の火が消えているのに気がいたようにして、足許の燃えさしに吸いつけてむ。村の男はそのさまをじろじろと見る。
村の男 ほんとに学者という者は、辛抱がええな。あの赤い星が、雷のような音をして東へ飛んだ年にも、ここにおったというじゃありませんか。いなごが雲のようにこの村へやって来た時にも、先生はここにおりましたな。久しいもんじゃ、辛抱がええ。張公の媽媽の気違いも、先生の足許にゃ寄れないぞ。
蒲留仙 うむ……、うむ……、張公の媽媽か。
蒲留仙は雁首がんくびの大きな煙管に淡巴菰を詰めかえながら相手にならないので、村の男は歩きだした。
村の男 やれ、やれ、御苦労なことじゃ。茶と淡巴菰の接待をして、蛇の色女に嘗められるような話を聞こうというのじゃ。
二人の旅人が下手しもてから来て、涼亭の口で村の男とれ違って入って来る。その一人の甲は、こもで包んだかさばった四角なつつみを肩に乗せ、乙は小さな竹篭たけかごを右の手に持っている。蒲留仙の眼はその旅人へといく。
蒲留仙 ああ、旅の方だね、暑かったろうね。休んでいったらいいだろう、茶も淡巴菰もあるから、あげるよ。
旅人甲は、蒲留仙の方を見てから会釈をする。
旅人甲 ありがとうございます。【それから乙の顔を見る】休ましてもらおうじゃないか。
旅人乙 よかろう、一ぷくさしてもらおう。
旅人の二人は蒲留仙の向いへいって、荷物を置き、笠を除って腰をかける。蒲留仙は煙管を置いて、柄杓を持ち、壷の中の茶を二つの碗に入れる[#「入れる」は底本では「人れる」]
蒲留仙 茶をおあがり、淡巴菰もあるから、みたい方は、勝手におあがり。
旅人甲 それではお茶をいただきます。
旅人乙 私もお茶を先ずいただきまして、後で淡巴菰を一ぷくいただきます。
旅人甲から先に起って蒲留仙の前へいき、蒲留仙の汲んだ茶を取って飲む。
蒲留仙 遠慮なしにおあがり、もっと入れてあげよう。
蒲留仙は柄杓を持ったままである。旅人甲は二はい目の碗をだす。
旅人甲 それではすみませんが、もう一ぱいどうか。
蒲留仙 いいともたくさんおあがり。
蒲留仙は旅人甲の碗を取ってそれに茶を汲んでやる。旅人乙は碗を置く。
旅人乙 私は淡巴菰を一ぷくいただきます。
蒲留仙 さあさあおあがり、淡巴菰はその袋の中に入っている。
旅人乙 ありがとうございます[#「ありがとうございます」は底本では「ありがとうございす」]、それではいただきます。
旅人甲は二はい目の碗をもらって、それを持ってはじめの所へ行って腰をかける。旅人乙は皮袋に手をやって口を開け、中から淡巴菰をつまみだして煙管に詰め、足許の燃えさしの火でつけて、一すいして煙をだした後に、これもはじめの所へいって腰をかける。蒲留仙ももう煙管を持って旅人の方を見ている。
蒲留仙 お前さん方は、どこから来なすった。
旅人甲 労山ろうざんからまいりました。
蒲留仙 ほう、労山から来なすったか、それはくたびれたろう。それにこの二、三日は暑いから……。
旅人甲 しかし、山の中はたいへんに涼しゅうございますね、路路いい水はありますし。
蒲留仙 水はいいよ、水のいいのは、山の中にいる者の一徳だ。この茶は、あの谷から湧く水だよ。
蒲留仙は振りかえって後の人家の屋根越しに見える丘に煙管をさす。
旅人甲 そうでございますか。
旅人乙 だからお茶でも味がちがいます。
旅人甲は碗を持ったなりに、旅人乙は煙管を口から離して、ちょっと体を前屈みにし、涼亭の軒越しに眼をやる。
旅人乙 なるほど、石があって、木があって、仙人のいるような山でございますね。
旅人甲 なるほどそうじゃ。
蒲留仙は体の位置をなおして、旅人乙の顔を見る。
蒲留仙 仙人といえば、お前さん方は、珍らしい話を聞いてやしないかね。何か面白そうな話があるなら聞かしてもらいたいが。
旅人乙 面白いはなし、そうでございますね。
蒲留仙 どんな話でもいいよ。狐の話でも、蛇の話でも、狼が女になって人間と夫婦になったというような話でも、悪人の話でも、ゆうれいに逢った話でも、なんでもいいよ、わしは毎日、ここにこうしていて、旅の方に、いろいろの話をしてもらっているよ。
旅人甲 それは面白い趣向でございますね。べつにこれという面白い話もございませんが……、そうですな、私が家を出るすこし前に、こんな話を聞きましたが。とうといいまして、人の噂では、匪徒ひとの仲間入りをしているという男ですが、その男が二更にこうのころに、酒に酔って歩いておりますと、その晩は月があって、紅い着物を着た女が路のはたにしゃがんでおるから、からかってみるつもりになったでしょうね。そっと背後から行って、くすぐると、女が顔をこっちに向けたが、どうでしょう、その顔は、目も鼻もない、つるりっとした白い肉のかたまりじゃありませんか。さすがの男も、きゃッといったきりで、そのままそこへ気絶してしまったのを、ちょうど仲間の者が通りかかって、家へかついで来て、介抱しましたから、やっと正気になりました。目も、鼻も、口も、何もなくてつるりっとしていたといいますからね。【と、旅人乙の方を向いて】お前さんがこの間話した、子供を斬った傷の話も面白いじゃないか。
旅人乙 そうじゃ、その話をしよう。それは昔だれかに聞いた話だが、【と、煙管の吸殻すいがらを吹いて煙管を側へ置きながら蒲留仙の顔を見て】宋城の南店に宿をとっておった男が、夜、月の晩に歩いておりますと、前を老人が歩いてて、月の光で手にしている帳簿のような物を読んでおりますから、おじいさん、何を読んでおりますかと聞くと、これは婚牘じゃ、お前さん達が婚礼のことを書いてあるというそうです。そして、米市に行ったところで、向うの方からめっかちのばあさんが、三つ位の女の児を抱いて来ましたが、老人はそれを見ると、あの女の児は君のかないじゃといいますから、その男はひどく怒って、めっかちのれている子供を妻にしてたまるもんか、けしからんことだといって、伴れている従者にいいつけて、その女の児を殺しにいかしました。従者はいいつけ通り、後からそれをつけていって、人中で女の児の顔を切ってから逃げましたが、後十四年たってその男が高官にのぼったので、刺史をしていた人が娘をくれましたが、その女は綺麗でしたが、平生も眉間みけんかんざしをさげているので、気をつけてみると眉間に傷痕きずあとがあります、聞きますと、三つの歳に乳母うばに抱かれて市中を歩いていて、狂賊に刺されたといいますから、乳母の容貌を聞きますと、めっかちであったといったそうですよ。
その時いつの間に来たのか葉生が来て、下手の入口を入った[#「入った」は底本では「入つた」]所に立っていたが、いたずらそうな碧眼をぐるぐるやると共に口をだした。
葉生 そりゃ京兆眉憮けいちょうびぶよ。【葉生は得意そうにして、蒲留仙の前へ来て】先生、今日は、他に何かいい話がありましたか。
蒲留仙は葉生の胴の方から見あげて、ちらっとその顔を見る。
蒲留仙 ああ、君か。
葉生 先生お暑いじゃありませんか。【と、茶の方に眼をやって】早速ですが、お茶を一ついただきますよ。
蒲留仙 いいともおあがり。
旅人二人は話の腰を折られて不快な顔をして見せたが、それとともに遠い行手を思いだしたように、
旅人甲 それじゃ、もう出かけようか。
旅人乙 そうじゃ、出かけよう。
そこで旅人甲はからになった碗を持ち、旅人乙は煙管を持って起って、蒲留仙の前へ行って、それぞれもとの所へ置いた。葉生はもう自分で茶を入れて起ったなりに飲んでいる。
旅人甲 どうもありがとうございました。
旅人乙 どうも御馳走になりました。
蒲留仙 どうもありがとう、いい話を聞いた。ではお大事に。
旅人は会釈してから荷物の所へいき、笠を着け、荷物をはじめのようにして出ていく。
葉生 先生、今の話は、京兆眉憮けいちょうびぶの話でしょう、女の児を刺した話は。
蒲留仙 そうだね、似た話だね。
葉生 あれですよ、【二はい目の茶を入れながら】あの話があちこちに伝わっているまに、あんなになったのですよ。
蒲留仙 しかし、それでもいいよ。人の頭をあちこちと潜っていると、違った味のある話になることがあるからね。君は、また何か面白い話を聞いて来てはいないかね。
葉生 一つ面白い話がありますよ。それを話しに来たのです。
蒲留仙 そうかね、それはありがたい。
蒲留仙は思いだしたように煙管の雁首の方を膝の上に持って来て、新らしく淡巴菰を詰める。
葉生 私も淡巴菰をいただきますよ。【急いで茶を飲んでしまって、旅人の持っていた煙管を取って淡巴菰を詰め、それに火をつけて、壷の隣へ行って腰をかけ】先生、昨夜聞いた話ですがね。
蒲留仙 そうかね。
葉生 莱州らいしゅうから来た秀才の話ですから、つまらない旅人の話とは違いますがね。
蒲留仙 そりゃそうだろう。
葉生は淡巴菰をうまそうにすぱすぱんで、ちょっと話にかからない。蒲留仙はゆっくりと淡巴菰の煙を吹かす。
葉生 その話はね、先生、周立五しゅうりつごという男の話ですがね、その男は、顴骨かんこつがひっこんでて、あごがすっこけ、口鬚くちひげも生えないで、甚だ風采ふうさいのあがらないうえに、三十二になっても、童子の試にとおらないという困り者でしたが、お父さんにいて荊南へ行って、南城の外倉橋の側に宿をとっていると、夢に雉冠絳衣ちかんこういの人が来て、その人は右の手に刀を持ち、左の手に鬚のある首を持っているのですが、その人が周のねだいの前へ来るなり、いきなり周の首を斬って、手に持っていた首とえて行ったので、周はびっくりしてお父さんの足にだきつき、大声をあげたから眼が覚めたのです、眼を覚して、首を撫でてみますと、べつに異状もないので安心したのです。【話し話し吸殻すいがらを吹いて、二ふく目の淡巴菰を詰め、それに火をつけてうまそうに吸い】ところで、その周ですが、それから数日すると、顴骨が高くなり、あごの骨が張って、そのうえ口鬚が生えてりっぱな顔になりましたが、それからまた一年半ばかりすると、また夢に鬚の白い黒い冠を着けた老人が、長い塵尾ほっすを持って、金甲神を伴れて来て、お前の腹を易えてやろう、といったかと思うと、伴れている金甲神が、もう刀をいて、周の腹を裂いて、その臓腑をだしてあらって、もとの通りに収め、その上に四角な竹の笠をせ、釘をその四隅に打ったが、そのつちの音が周の耳に響くがすこしも痛くはなかったそうですよ。【三ぷく目の淡巴菰を詰めて、またそれに火をつけて吸いだす】そこで釘が終ると、老人は塵尾を揮って、「清虚鏡に似たり、元本塵無し」といったのですが、周の夢はそれと一緒に醒めたのですが、それから周の文学が急に進んで、ついに侍講学士になったというのです。これは秀才のいったことですから、無学な旅人などのいった話と違いますよ。
蒲留仙 うむ、そうだろう、面白い話だ、いい話だ。
葉生 さっきの話とは違いますよ。
蒲留仙 違う、いい話だ。では忘れないうちに書いて置こうかね。
蒲留仙は煙管を置いて左側を向き、静かに筆をって墨を含まし、一方の手に紙を持って、何かそろそろと書きはじめる。葉生はそれをじろじろ見ながらまた新らしい淡巴菰を詰めてみだす。
蒲留仙 面白い話だ。
葉生 その話はちょっと面白いでしょう。
蒲留仙 面白い、面白い、あれも、これも面白い。
蒲留仙はしきりにうなずきながら筆を動かしている。葉生は黙って淡巴菰を喫みながらそれを見ている。
蒲留仙 面白い、面白い。
葉生は吸殻すいがらを吹きだして、かちりと音をさして煙管を置く。
葉生 先生、今日はこれで失礼します、すこし急ぎますから。【と、起ちあがって、その時顔をあげた蒲留仙にちょっと会釈してから、はじめに来た方へ歩きながら】また、明日でもいい話を持って来ます。
蒲留仙 ああ、また頼むよ。
蒲留仙はそのまままた俯向うつむいて筆を動かしている。
李希梅がそこへ静かに入って来る。
李希梅 先生。
蒲留仙はうっとりした眼をあげる。李希梅はそれに向ってうやうやしく話をする。
蒲留仙 李君か、よく来た、まァ掛けたまえ。
李希梅 はい。
蒲留仙 茶はどうだね、あげようかね。
李希梅 あとでいただきます、ほしくはありませんから。
蒲留仙 では淡巴菰は。
李希梅 は、今は、何もほしくはありませんから、あとでまた。
蒲留仙 では、まァ掛けたまえ。
李希梅 はい。【蒲留仙の左側へいって腰を掛けながら】先生、今、葉生が来ていたのでしょう。
蒲留仙 来ていたよ、【と、筆を置き、紙を巻いてそれも硯の側に置いて】逢ったかね。
李希梅 逢いました。今日は、あの男、どんな話をしていったのです。
蒲留仙 いや面白い話をしていったよ。
李希梅 今、世説にある話をしやしなかったのですか。
蒲留仙 どうして、君は、それを知ってるかね[#「知ってるかね」は底本では「知つてるかね」]、【笑い顔をして】聞いたかね。
李希梅 これが、【と、袖に手を入れて古い汚い書籍をだして】これがそこに落ちていたのですよ。きっとあの男が淡巴菰を喫む材料に持って来たものですよ。【と、あざけるように笑って】どの話をしたのです。
蒲留仙 周立五しゅうりつごが夢に首を易えられ、腹を洗われる話だよ。
李希梅 先生は御存じになってて、黙って聞いていらしたのですか。
蒲留仙 知ってたが、人の頭をとおすと、また面白い味のできるものだからね。
李希梅 でも淡巴菰を喫みに来るために、持って来るいいかげんな話じゃありませんか、あの男はしかたのない奴ですよ。それにありゃ、中国の者じゃありませんよ、あの髪から眼からいっても。
蒲留仙 そうかも判らない、女真にょしんあたりの者かも判らないね。
李希梅 そうですよ、どこの者かも判らない浮浪人ですよ。もう、これからあんな者を側へ寄せつけないがいいですよ、ばかばかしいじゃありませんか。【と、手にしていた書籍を投げるように側へ置いて、重重しい顔をして】こう申しちゃなんですが、先生あなたのような学問と文章をお持ちになりながら、こんなことをなされて一生を終られるは惜しいではありませんか。都の方では、今、天下の学者を集めている時じゃありませんか。都の方へおのぼりになれば、先生を用いるところは、いくらでもあるじゃありませんか。
蒲留仙 いや、君のいってくれてる意味は、よく判っているし、非常にありがたいが、わしはどうも性に合わない。わしも若い時は、儒学によって身を立てようと思ったことがあるが、考えてみれば、大官となり大儒となって、一世に名をあげたところで、ほんとうに心から楽しいか楽しくないか判らない。君達は、わしがこうして牛鬼蛇神ぎゅうきじゃしんの話を集めているのを見ると、魔道にでも陥ったように思うだろうが、学者なんていう者は、たとえてみれば、夜と昼とのある世の中に、昼だけの単調な世界に一生あくせくとしていて、淑奇恍惚しゅくきこうこつの夜の世界を知らないような者だよ。
李希梅 はい。
蒲留仙 わしは平生も、狐妻こさいを獲て、ゆうれいとほんとうの友達になったら、どんなに世の中が深くなるだろうと思うよ。
李希梅 は。
蒲留仙 文学としても、わしは、意味があるように思うが、しかし、これはわし一家の意見だから、決して人に強いるものじゃない。【と、いって気がいたように】今日はもう帰ろう、わしの家へ行こうじゃないか。この前に葉生の話した捜神記そうしんきうりを乞うた術者の話から、種梨しゅりという面白い話をこしらえてあるから、見せるよ。
李希梅 はい。
蒲留仙が起ちあがって硯の始末をはじめだす。李希梅は時時やって慣れているように、壷をしまってそれを左の胸に抱え、右の手に二本の煙管と皮袋などを持って起つ。蒲留仙は硯を右の手に持ち、左の手に紙と筆とを持ってやっとこさと腰をあげる。
蒲留仙 さあ帰ろうかね。【といって李希梅の拾って来た書籍に気がいて紙と筆とを持って手に取り】明日にでも返してやろうじゃないか。
季希梅 は。

底本:「聊斎志異」明徳出版社
   1997(平成9)年4月30日初版発行
底本の親本:「支那文学大観 第十二巻(聊斎志異)」支那文学大観刊行会
   1926(大正15)年3月発行
入力:門田裕志
校正:仙酔ゑびす
2008年3月4日作成
青空文庫作成ファイル:
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