あらすじ
雪が降り始めると、北海道の奥地から「出稼」に来た人々が、仕事を求めて小樽や函館へと集まってきます。彼らは、夏の間は過酷な労働に従事していたものの、冬には職を失い、寒さの中で行き場を失ってしまうのです。まるで、流刑の地で故郷を思いながら過ごす「俊寛」のように。彼らは、停車場へ向かい、ストーブの温かさを感じ、故郷を連想させる言葉を耳にしようとします。しかし、冬は厳しい現実を突きつけます。仕事を求めて集まった「俊寛」たちは、互いに食料を奪い合い、争いも起こるのです。夏の間彼等は棒頭にたゝきのめされながら「北海道拓殖のために!」山を崩した。熊のいる原始林を伐り開いて鉄道を敷設した。――だが、雪が降ると、それ等の仕事が出来なくなる。彼等は用がなくなるのだ。そうなると、汽車賃もくれないで、オツぽり出される。小樽や函館へ出てくるのはこういう人達なのだ。
雪の国の停車場は人の心を何か暗くする。中央にはストーヴがある。それには木の柵がまわされている。それを朝から来ていて、終列車の出る頃まで、赤い帽子をかぶつた駅員が何度追ツ払おうが、又すぐしがみついてくる「浮浪者」の群れがある。雪が足駄の歯の下で、ギユンギユンなり、硝子が花模様に凍てつき、鉄物が指に吸いつくとき、彼等は真黒になつたメリヤスに半纏一枚しか着ていない。そして彼等の足は、あのチヤツプリンの足なのだ。――北海道の俊寛は海岸に一日中立つて、内地へ行く船を呼んでいることは出来ない。寒いのだ! しかし何故彼等は停車場へ行くのだ。ストーヴがあるからだ。――だが、そればかりではなくて、彼等は「青森」とか、「秋田」とか、「盛岡」とか――自分達の国の言葉をきゝたいのだ、自分ではしかし行けないところの。そしてまたそれだけの金を持つており、自由に切符が買えて、そこへ帰つて行く人達の顔を見たいからなのだ。――私は、その人達が改札を出たり、入つたりする人達を見ている不思議にも深い色をもつた眼差しを決して見落すことは出来ない。
これはしかしこれだけではない。冬近くなつて、奥地から続々と「俊寛」が流れ込んでくると、「友喰い」が始まるのだ。小樽や函館にいる自由労働者は、この俊寛達を敵よりもひどくにめつける。冬になつて仕事が減る。そこへもつてきて、こやつらは、そうでなくても少ない分前を、更に横取りしようとする。この「友喰い」は労働者を雇わなければならない「資本家」を喜ばせる。――北海道の冬は暗いのだ。
了
底本:「日本随筆紀行第二巻 札幌|小樽|函館 北の街はリラの香り」作品社
1986(昭和61)年4月25日第1刷発行
底本の親本:「小林多喜二全集 第八巻」かすが書房
1958(昭和33)年6月
入力:向山きよみ
校正:noriko saito
2010年10月9日作成
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