四月四日
 電灯が消えたので思はず舌を打つた。だが、窓をあけると輝かしい朝陽がみなぎつてゐた。H君と一緒に海辺へ行く。朝釣りから戻つて来た舟の人から大きな鯵を買ひ、H君が尾をさげてもどる。鯵を酢にして朝飯を喰ふ。ビールの軽い酔を得て昼まで眠る。競馬にさそはれたが止める。
 二三時間しか眠らないので、頭が変だが、眠くもないので、アメリカ料理の古いグラヒツクなどを眺める。朝まで起き通すだらう。

底本:「牧野信一全集第三巻」筑摩書房
   2002(平成14)年5月20日初版第1刷
底本の親本:「文章倶楽部 第十三巻第五号(五月号)」新潮社
   1928(昭和3)年5月1日発行
初出:「文章倶楽部 第十三巻第五号(五月号)」新潮社
   1928(昭和3)年5月1日発行
※底本編集時に付されたと思われる、表題冒頭の「●」は省きました。
※「私の一日」と題したアンケートへの、「軽い酔」との回答です。
入力:宮元淳一
校正:門田裕志
2011年7月14日作成
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