あらすじ
師と生徒は、険しい山道を登り、頂上にたどり着きます。生徒は喜びに満ち溢れ、東の谷に向かって石を投げつけます。その音が遠くまで響き渡る中、師は生徒の行動を静かに見つめ、老鶯を驚かさないよう、注意を促します。生徒は師の言葉に深く感銘を受け、畏敬の念を抱きます。その後、生徒は雲の峰を眺めようと、蕗の葉を地面に置きます。講の主催者は、その葉を師に差し出そうとします。生徒は再び三枚の葉を重ねて地面に敷き、師はそれを受け取って座ります。
いたやと楢の林つきて
かの鉛にも続くといへる
広きみねみち見え初めたれば
われ師にさきだちて走りのぼり
峯にきたりて悦び叫べり
江釣子森は黒くして脚下にあり
北上の野をへだてて山はけむり
そが上に雲の峯かゞやき立てり
人人にまもられて師もやがて来りたまふに
みけしき蒼白にして
単衣のせなうるほひ給ひき
われなほよろこびやまず
石をもて東の谷になげうちしに
その石遙か下方にして
戞として樹をうち
また茂みを落つるの音せりき
師すでに立ちてあり
あへぎて云ひたまひけるは
老鶯をな驚かし給ひそとなり
講の主催者粛として立ち
われまた畏れて立ちつくせるに
人人〔一字難読〕かずつかれて多くはたゝずめりき
しかはあれかの雲の峯をば
しづかにのぞまんはよけんと
蕗の葉をとりて地に置けるに
講の主催者
その葉を師に参らせよといふ
すなはち更に三葉をとつて
重ねて地にしき置けるに
師受用して座しましき

底本:「新修宮沢賢治全集 第六巻」筑摩書房
   1980(昭和55)年2月15日初版第1刷発行
※「〔一字難読〕」は、底本編集時の注記です。
入力:junk
校正:土屋隆
2011年5月14日作成
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