あらすじ
霧の立ち込める細い道を歩く男は、自分の生き方を疑い、腕を組みます。男は、周囲から頼りにされる存在であり、その力強さは周囲の者から一目置かれています。しかし、その男の心は、周囲から期待される役割とは別の、静かなる場所に惹かれるのです。その静かな場所とは、男の内に秘められた、誰も知らない夢であり、その夢に向かって、男は静かに歩みを進めていきます。
霧降る萱の細みちに
われをいぶかり腕組める
なはたくましき漢子かな
白き上着はよそへども
ひそに醸せるなが酒を
うち索めたるわれならず
はがねの槌は手にあれど
ながしづかなる山畑に
銅を探らんわれならず
検土の杖はになへども
四方にすだけるむらどりの
一羽もために落ちざらん
土をけみしてつちかひ
企画をなさんつとめのみ
さあればなれよ高萱の
群うち縫へるこのみちを
わがためにこそひらけかし
権現山のいたゞきの
黒き巌は何やらん
霧の中より光り出づるを

底本:「新修宮沢賢治全集 第六巻」筑摩書房
   1980(昭和55)年2月15日初版第1刷発行
※〔〕付きの表題は、底本編集時におぎなわれたものです。
入力:junk
校正:土屋隆
2011年5月14日作成
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