あらすじ
夜空にゆがみながら昇る月、薄雲は淡い色合いに染まります。汽車の音が遠くから聞こえ、恋心を思わせる風が吹き抜ける中で、ペン先が紙の上を滑り、山の稜線が白く浮かび上がります。汽車の音がさらに遠ざかり、涙を誘う松の哀しげな姿が目に浮かびます。枯れ草がそよぎ、手帳だけが静かに光を放つのです。うすぐもは淡くにほへり
汽車のおとはかなく
恋ごゝろ風のふくらし
ペンのさやうしなはれ
山の稜白くひかれり
汽車の音はるけく
なみだゆゑ松いとくろし
かれ草はさやぎて
わが手帳たゞほのかなり
了
底本:「新修宮沢賢治全集 第六巻」筑摩書房
1980(昭和55)年2月15日初版第1刷発行
※〔〕付きの表題は、底本編集時におぎなわれたものです。
入力:junk
校正:土屋隆
2011年5月14日作成
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