あらすじ
それは、深く切ない恋の歌です。愛する人が亡くなり、その悲しみと喪失感に打ちひしがれる語り手の心の声が、力強い言葉で表現されています。愛する人と再び会うことを望む切実な願い、そして生と死の境界線を越えて交わることの叶わなさ、そんな複雑な感情が繊細に描かれていくのです。アリイルスチュアール
一九二七
(房中寒くむなしくて
灯は消え月は出でざるに
大なる恐怖の声なして
いま起ちたるはそも何ぞ!……
わが知るものの霊よ
何とてなれは来りしや?)
(君は云へりき わが待たば
君も必ず来らんと……)
(愛しきされど愚かしき
遙けくなれの死しけるを
亡きと生けるはもろ共に
行き交ふことの許されね
いざはやなれはくらやみに
われは愛にぞ行くべかり)
(ゆふべはまことしかるらん
今宵はしかくあらぬなり)
(とは云へなれは何をもて
ひととわれとをさまたぐる
そのひとまことそのむかし
汝がありしごと愛しきに
しかも汝はいま亡きものを!)
(しかも汝とていまは亡し)了
底本:「新修宮沢賢治全集 第六巻」筑摩書房
1980(昭和55)年2月15日初版第1刷発行
入力:junk
校正:土屋隆
2011年5月14日作成
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