あらすじ
都会で試験を受ける友人を思いながら、主人公は森へ百合を掘りに出かけます。森の静寂の中で、主人公は百合の鱗片を丁寧に探します。遠くから聞こえる汽車の音は、都会へと向かう友人の姿を想像させるのでしょうか。主人公の心は、百合を求める気持ちと、友人を思う気持ちで揺れ動いています。ひと恋ひて 林に行けば
濁り田に 白き日輪
くるほしく うつりゆれたる
友らみな 大都のなかに
入学の 試験するらん
われはしも 身はうち疾みて
こゝろはも 恋に疲れぬ
森のはて いづくにかあれ
子ら云へる 声ほのかにて
はるかなる 地平のあたり
汽車の音 行きわぶごとし
このまひる 鳩のまねして
松森の うす日のなかに
いとちさき 百合のうろこを
索めたる われぞさびしき
了
底本:「新修宮沢賢治全集 第六巻」筑摩書房
1980(昭和55)年2月15日初版第1刷発行
入力:junk
校正:土屋隆
※底本は、「作者専用の詩稿用紙に書かれた詩篇を収録し」、多くの詩篇で、詩稿の形式に合わせて上下に二句を配置し、字間スペースなどを調整して下の句の頭が横にそろうように組んである。この形を取っているこの詩篇では、句間を最低全角2字空けとし、下の句の頭を横にそろえた。
2011年5月14日作成
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