あらすじ
静寂の中に響き渡る嘆き声。酒を酌み交わす二人、それぞれの胸に秘めた想いは深く、暗い夜空に溶け込んでいきます。ふるさとを離れ、寂しさを抱える男は、酒を飲みながら自身の心の内を吐露します。一方、男の友人は、彼の心情を理解し、共に酒を飲みながら静かに寄り添います。酒に酔いしれ、二人の心は次第に一つになっていくようです。
嘆きあひ   酌みかふひまに
灯はとぼり  雑木は昏れて
滝やまた   稜立つ巌や
雪あめの   ひたに降りきぬ

「ただかしこ 淀むそらのみ
かくてわが  ふるさとにこそ」
そのひとり  かこちて哭けば
狸とも    眼はよぼみぬ

「すだけるは 孔雀ならずや
ああなんぞ  南の鳥を
ここにして  悲しましむる」
酒ふくみ   ひとりも泣きぬ

いくたびか  鷹はすだきて
手拭は    雫をおとし
玻璃の戸の  山なみをたゞ
三月の    みぞれは翔けぬ

底本:「新修宮沢賢治全集 第六巻」筑摩書房
   1980(昭和55)年2月15日初版第1刷発行
※底本は、「作者専用の詩稿用紙に書かれた詩篇を収録し」、多くの詩篇で、詩稿の形式に合わせて上下に二句を配置し、字間スペースなどを調整して下の句の頭が横にそろうように組んである。この形を取っているこの詩篇では、句間を最低全角2字空けとし、下の句の頭を横にそろえた。
入力:junk
校正:土屋隆
2011年5月14日作成
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