あらすじ
夜遅く、霜が降り、冷え切った闇の中に、疲れ果てた舞妓たちが静かに寝静まっている、静かな夜。古びた店先に、客を待ち侘びる男と女の姿があります。そこへ、忍び寄る黒い影。それは巡査でした。店の奥から聞こえる鍋焼きうどんの呼び込み、そして恋の歌が流れる賑やかな声。夜の帳が下りた街に、様々な音が響き渡ります。
夜はくだつ十一時、
霜さむく、圧(お)しくる闇(やみ)の気の凍(いて)に、
舞(ま)ひ疲(つか)れては黄塵(わうじん)も
しくしくと泣き湿(しめ)り、
侘寝(わびね)すらし。

色(いろ)褪(さ)めし達摩像(だるまぞう)、
はた古りし徳利(とくり)のやうに、つくねんと、
屑本(くずほん)のちりばふ中(なか)に
頸(くび)ほそう客(きやく)を待(ま)つ
男(をとこ)、女(をみな)

煤(すゝ)けたる帆木綿(ほもめん)に
一品(いつぴん)と文字(もじ)も寂(さび)しく、灯(ひ)は曇(くも)り、
皿道具(さらだうぐ)鳴(な)る中(なか)へ、つと、
忍(しの)びよる黒き物――
巡査(じゆんさ)なりき。

火(ひ)の番(ばん)の拍子木(へうしぎ)の
後方(しりへ)より『鍋焼(なべやき)うどん』、また来(く)るは、
よきこゑの『恋(こひ)の辻占(つじうら)』
鮭(しやけ)さげて小走(こばし)りの
町(まち)の若衆(わかしゆ)。

炭俵(すみだわら)、はた薪(まき)か、
河岸(かし)遠(とほ)く、をりから物(もの)の落(お)つる音(おと)、
犬の声(こゑ)、さはれ五分時(ごふんじ)、
濁水(だくすい)は音(おと)もなく
西へ流る。
了

底本:「沖縄文学全集 第1巻 詩」国書刊行会
   1991(平成3)年6月6日第1刷
入力:坂本真一
校正:フクポー
2018年1月27日作成
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