あらすじ
港の底に沈んだ鉄片は、空想を抱きながら海面に浮かび上がろうとします。鉄片は、自由な展望を持つ浮標や、海と空を自由に駆け巡る外国汽船など、港に集う様々なものに憧れを抱いています。一方、港街は活気に満ち溢れ、高楼がそびえ立ち、人力車が行き交い、太陽の光が燦燦と輝いています。鉄片は、そんな賑やかな港の風景を眺めながら、自分自身の未来を夢見ています。
浚渫(さらひ)船はいづこの海を浚つてゐるのだらう
鉄片は沈んで沈んで港の底
眇の眸を覗かせるよ
ああ気なげな空想を抱いてゐるぞ
ねそべつた比目魚が吐きだす泡にぶらさがり
ゆらゆら海面に昇つてゆく鉄片の願望よ
おをい!
海上遠く、青空映す友だちよ
針魚よりも鋭い腰の短剣め!
あいつの主人はランチを飛ばして海軍大尉の美男子だ
浮標(ブイ)めの自由な展望よ
あいつは海と空の骰子だ
あいつは燈台の横腹にさしこむ朝日の第一線にも見あきてゐよう
港外を素通りする外国汽船ののつぽな煙筒
出帆を敲く銅鑼めの得意な面つきよ
あいつの面(つら)に照り反す海
空
太陽よ
麝香。白粉。ワキガの花粉を吹飛ばす
突堤に乱れるパラソルの花園!
輝きつゞく港街は晴天の祭日だ
帝国銀行の高楼を積上げるつみあげる
起重機の妖しい肘よ
混血児
人力車
タバコ
避電針
アンテナ
気象台
煙
鳥
雲
飛行機
飛行機の両翼を凛乎と張る細い針金よ
岬遠い避病院の塀ぎはに転つた哀しい空鑵
あ、あ、潰れた空鑵にだつて落日が光る光る
ぼくは嗅ぎたいよ
日光が嗅ぎたいよ
あつたかい鴎の糞(マン)がたべたいよ
了

底本:「沖縄文学全集 第1巻 詩」国書刊行会
   1991(平成3)年6月6日第1刷
入力:坂本真一
校正:良本典代
2016年11月21日作成
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