あらすじ
寺院の右に立つ大楼門。そこには、古典の縁起を語り継ぐ歴史と、生きた人々の切ない願いが重なり合っています。彼らは、魂のざんげを求め、この場所に集い、忘れられた幸せを思いながら、静かに祈りを捧げます。彼らの心の奥底には、叶わぬ望郷の念が深く根ざし、それは深い哀しみと切ない憧れを呼び覚ますのです。古典の縁起を語れる大楼門の右にて感ずるは
極めてあわれなる庶民等が心中ぞ土に生くるものの幸を忘れて自己等が建つるこの寺院に拠り魂のざんげをせん人々のかなしさぞ
*
鳥けものの屍土に在りて
此処は人の香もせざりし頃より
未だ幾年を経しか
魂は未だに限りもなく
深山幽谷の彼方に憧れあるに
愚かなる望郷の者達は
ここにあり往かんとせじ
せめては古典のめぐしみに
会せんとのみ願えるか
我等北国の叢生
彼方へ憧れあるものの
アブサント、阿片によいるが如くひたぶるに恋してあるに
*
あああわれなる庶民等が心中ぞ
往かんと願えるものはあらざるか
*
彼らすべて懐郷病の患者なり
了
底本:「今野大力作品集」新日本出版社
1995(平成7)年6月30日初版
初出:「旭川新聞」
1924(大正13)年5月19日
入力:坂本真一
校正:雪森
2015年2月17日作成
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