男心とはかうしたもの(女のえらさと違う偉さ)

    尊敬したい気持

 結婚前は、男子に対する観察などいつても、甚だ漠然としたもので、寧ろこの時代には、男とも、女とも意識しなかつた位です。
 それが結婚して、やうやく男子に対する自覚が出来、初めて男といふものが解つた時、私の感じたのは、男子といふものは事業慾が強くて、一般に利己主義なものだと思ひました。
 然しかうした考へは、まだ充分に男子といふものが解つてゐない。つまり観察の一階段に過ぎなかつたもので、それから立ち直つて考へて、だん/\男といふものが解つた気もちになつた時、尊敬の念が起るやうになりました。つまり一段階に於いて感じた男子の利己主義も、それをつぐなつて余りあるだけの男の偉さを、第二段に於いて感ずるやうになつたのです。結局私は此頃男子に対して尊敬してをりますが、然しそれかと云つて、女が偉くないといふ意味ではなく、又男子に盲従しようといふ尊敬のしかたでは勿論ないのです。唯女の偉さと違ふ秀れた偉さを男は持つてゐるといふことであつて、女が例へ自分が偉いと思ふ自覚をもつてでも、どこまでも男は尊敬してゆきたいと私は思ふのです。

    やさしい性情の持主

 そんならどこが男の秀れた偉さかと聞かれると、一寸説明がしにくいのですが、結局いろんな点から云つて男は大きくて力があります。つまり生命力が男は女とちがつた意味で豊富だと思ひます。気持ちの上にも余裕があつて、例へば男には憂鬱があつても女ほどヒステリツクなところがありません。女の世界を見るやうに陰険さがありません、女より慈悲があります、技術とか才とかいふ方面は兎も角として、細かに観察すると、たしかに男は女よりもやさしい性情を持つてゐると思ひます。これは男の全体がそうだといふことは云へないかもしれませんが、私たちの社会から観察してたしかにかういふ点で尊敬すべき点を男子に見出すことが出来ます。これは女と対照して考へるのではありませんが、転じては比較になるかしれません。女同士の小心さや不愉快など経験して、此頃は男の偉さといふものに対して尊敬する気持ちになつて居ります。

底本:「日本の名随筆 別巻83 男心」作品社
   1998(平成10)年1月25日第1刷発行
底本の親本:「岡本かの子全集 第十四巻」冬樹社
   1977(昭和52)年5月15日初版発行
入力:渡邉 つよし
校正:門田 裕志
2001年9月28日公開
2006年7月24日修正
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